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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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2人とも黄衣の魔女5

 魔女たちは、1つの分野に特化して魔法を研究し、他の魔女が真似できない境地に至る。

 その魔法を極めて一体何の意味があるのかと思っていたが、チルの話を聞いてようやく理解できた。彼女たちは次代の魔女に、自身の知識を継ぎ、より強大な魔女を作り上げるための材料の1つに過ぎなかったのだ。


 途方もなく長い時をかけて、黒衣(こくえ)の魔女に対抗できる魔女を作り出す。




「私たちは作物なのです。病気に負けないよう、傷をすぐに治せるよう、大きく美味しい実をつけられるように、改良された作物なのです」


「リリベル様の見た目は、人間に見えるかもしれませんが、実際はあらゆる種族の血が混ざった、人でもエルフでもゴブリンでも魔物でもない異形です。私たちと同じように」


「リリベル様の常人ならざる記憶力も、膨大な魔力を扱うことができる力も、私たちの血と経験が結んだ結果ですね」




 一体どれだけの魔女やその他大勢の命を犠牲にしてきたのだろうか。どれだけの巻き添えがあったのだろうか。俺にとってそれは余りにも壮大な話で、最早想像は及ばなかった。


「……『歪んだ円卓の魔女』たちも皆、改良されて生まれた者たちなのか?」

紫衣(しえ)の魔女は少し違います。リラ様は古い魔女で、数少ない魔女たちの監督者です。生まれた私たちの誰に実をつけさせるのか、誰が作物の()()になるのかを決めていました」


 それが当たり前のことだと言わんばかりに、彼女もトゥットもラザーニャも表情は何1つ変わらなかった。


「栄養って……殺されるために生まれてきた魔女もいるってことか……」

「残酷ですか? 屠殺と何ら変わりはないと思いますよ。それに、私たちは、誰が死のうと()()()()()()()()ので」


 魔女がどいつこいつも話を聞かないのは、もっと大事なことに興味を持って欲しいという理由のためだった。彼女たちはわざと性格が捻じ曲がるように育てられたのだ。




「じゃあ、セシルは……碧衣(へきえ)の魔女は……」

「生まれてすぐに、私たちがセシル様の目から光を奪いました。何も見ることができない魔女の経験を蓄積するためです」




桃衣(とうえ)の魔女は……」

「ローズセルト様は、親からの虐待とお友だちからの虐めを徹底的に受けてもらいました。愛情を受られなかった魔女の経験を蓄積するためです」




銀衣(ぎんえ)の魔女は、夜衣(よるえ)の魔女は、緋衣(ひえ)の魔女は……!!」

「皆様とも経験を蓄積するために、私たちの教育を受けてきました。皆様に与えられたマントが、皆様の経験を吸収して、この聖堂を訪れた時、個々の経験が私たちの栄養となり、実となります」


 なぜ、個性的なマントを皆が羽織っているのか。その理由が判明した。

 リリベルは黄色のマントを魔力が込められた防御にも使える特別なマントだと過去に言っていた。

 しかし、防御する本当の理由はマントを羽織る者を守るためではない。


 マントに蓄積された経験を守るためだった。

 同時に、円卓の中央に置かれている巨大な紫色の宝石が、何のために置かれているのかの察しがついた。




 そして、個性的なマントの色や形は、彼女たちが特定の魔法を極め、他の魔女が辿り着けない境地にまで魔法を極められるように、その分野に対してより()()()()()ように、個性的な色にして『冠』という名前をつけたのだ。


 一定の境地に至った魔女であることを他に見える形にするため、その魔女だけに与えられた称号が、『黄衣(おうえ)』や『白衣(はくえ)』という冠と独特な色と形をしたマントだったのだ。




 それでは。


 それではリリベルは、リリベルは一体何を人為的に歪められたのか。


「リリベルが捻じ曲がったのは……彼女の師匠であるダリアを失ったというのは……」

「彼女の成長のために、狂ってもらうために、必要なことだった」




 ()で聞いたことのある声だった。

 大講堂の出入り口から現れた彼女は、()で見たことのある魔女だった。


 花弁を意識した模様づけに、白を基調として黄色と橙色がグラデーションされたマントを揺らしながら、彼女は現れた。

 マントが揺らめく度に、花びらが舞っているかのような様は綺麗であった。


 血が繋がっていないことは明らかだが、どことなく顔の雰囲気はリリベルに似ていた。

 大人でありながら、それぞれの部位は強調されておらず、少し可愛らしげがあるような印象だ。


「貴方がダリア、か」

「リリベルが世話になった。彼女は君に迷惑をかけていなかったかい」

「迷惑をかけられることが心地良いと感じるぐらいに、彼女のことを愛している。それよりも、リリベルに貴方の無事な姿を見せてやって欲しい」




 そうしてダリアは、歪んだ円卓に備えつけられた椅子に座ってしまった。『歪んだ円卓の魔女』が座る席に腰を下ろしてしまったのだ。

 その様子はできれば見たくない光景だった。

 リリベルはダリアのことに関しては楽しげに話してくれた。ダリアのことを心から好きで知り、語っているのだ。そのダリアが『歪んだ円卓の魔女』の1人であるならば、リリベルが知らない訳がない。


 だからダリアは、リリベルが孤独になり、想像を絶する酷い仕打ちを受けている間に、彼女はこの席に着くようになったのだと決めつけた。彼女の痛みを知っていて、わざと助けずに無視したのだとしか考えられなかった。

 リリベルがダリアに抱いていた敬愛は、ダリアには1つも届いていなかったのだろうか。

 自然と浮かんでしまった想像は、俺の心を青く沈めた。悲しみで満たされて、彼女への文句を言う気も湧かなかった。


 口から出てきたのは、彼女が本当に『歪んだ円卓の魔女』の1人なのかという確認の言葉であった。


「貴方も『歪んだ円卓の魔女』の1人なのだな……」

「そうさ。私は華衣(かえ)の魔女ダリア・ジルソニアだ。よろしく、『愛しい魔女』の騎士」


 黄衣の魔女が魔女協会を抜ける前の『歪んだ円卓の魔女』、12人のうち11人と出会った。

 そして今、最後の1人に出会った。その最後の1人は、こともあろうにリリベルの師匠ダリアだった。


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