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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
526/723

3重6

 犯人が神なのか魔法使いなのか分からないまま、ひたすら雷が落ちて来ない方向へ逃げて行った。


 途中で力持ちのダナが、手を繋いでいたシェンナを肩に担ぎ上げて彼女に掴まらせて、列を1人分小さくして走ってくれた。おかげで走りやすくなった。

 皆の目が見えないことを察知して気遣ってくれたのだろう。


 走り続けたおかげで夜の寒さを実感する暇がないことは良いことだ。




『これだけ雷が落ちているのに、1発も当たらないなんてことはある……?』


 そんな怖がらせるようなことを言わないでくれ。

 今は運良く雷が当たらなかったということにしておいて欲しい。


『現実逃避……?』


 俺だけならまだしも、俺以外の者がここにはいるのだ。これが罠であったとしても、今は彼等を連れてここから逃げることに集中したい。




 夜の砂漠をただひたすらに走り続けていたら、いつの間にか雷は収まっていた。

 夕立が過ぎたかのようにピタリと雷は止んでいた。尤も空は満天の星空であり雲1つない。雷も雨も本来は降ってはこないはずだ。


 魔力切れか、神の気まぐれか。

 (いず)れせよ、雷が次に降る前に、皆の目を治した方が良い。


 砂上に立ち止まって治癒魔法を詠唱する。

 その時に皆の顔を初めて良く見ることができた。両耳から血を垂れ流していた。


 治癒魔法を詠唱していくと、誰もがハッとした顔になる。

 そして、誰もが音を再び感じることができるようになったことを示して、まともな声を上げてくれた。

 彼等が治って俺も安心する。


「頭がくらくらする」

「サンドワームはどうなった?」


 皆、思い思いのことを口にし始めて、耳の機能を取り戻したことを教えてくれた。

 目に関しては、シェンナやヴラスタリが目蓋を押さえて痛みがまだあることを示している。それでもものは何とか見えているようで、周囲の景色や顔を覗こうとしている。


「夜明けまでここで待つか?」

「碌に装備を持ってきていないぞ。()()を作るための打石は持ってきているが」

「騒げば黙する神(シーゲア)が来る」




 ヴラスタリとスーヴェリアにはオアシスへ送り届ける必要があった。

 食料は持ってきているが、俺1人分の食料しかない。サンドワームも失って、寝床を作るための快適な品も全て失った。

 無我夢中で走り続けたせいで、俺たちが先程まで寝ていたであろう場所はここから確認ができなかった。

 丘になったいくつもの砂山に隠れて、僅かに煙らしきものが立ち昇っているものが見える程度だ。その煙も小さくモヤのようにしか見えないため、戻るには時間を要するだろう。まだ使える装備を確認しに行くだけで、時間がかかる。


 夜明けまで静かに起き続けるのは、体力の消耗を激しくしてオアシスへ戻るための余力を削ることになる。

 黒い影で彩られた廃都の城壁が大きく迫っていて、今の装備や状況から考えてここからオアシスへ戻るとなると1日以上は時間を使う。


 水に関してはリリフラメルが何とかしてくれるから、彼女をスーヴェリアたちに付けてオアシスに戻れば何とかなるかもしれない。


 ただ、気掛かりなことはやはり雷のことである。

 この夜を凌いだとしても、オアシスに戻ろうとするスーヴェリアたちが狙われないとも限らない。唯一戦いに自信のあるシェンナも彼等の護衛をしてもらった方が良いのではないか。


 それなら廃都へ向かうのは俺1人ということになる。




 どうすれば2人を無事にオアシスに送り届けられるか、頭の中で最良の選択を思考していた。

 もう少しで結論が出るかという時に、考えていたことが全て無駄になる雷が降り注いだ。


 身体全体で受ける衝撃に誰もが動揺する。


 発光は俺たちのすぐ近くには落下しなかった。


 砂丘の向こう側で落雷が発生したおかげで、目は無事であった。




 しかし、雷は連続で発生していて、衝撃を徐々に強めていった。

 音は近すぎる余りどれも爆音であったため距離が掴めず、衝撃だけが唯一の雷との距離の指標になった。


 俺たちは廃都に向かって逃げるしかなかった。


 雷は、廃都とは反対の方向から徐々に迫って、俺たちを追い立てている。


 この雷は俺たちを廃都へ向かわせるために、放たれている。意思を持って行われている攻撃だ。

 セシルの疑念もあって、そう確信した。


『私は魔法使いか魔女の仕業に1票を投じるわ……』




 今度の雷は俺たちの視界を奪わないよう配慮されているように感じた。

 背中からひたすら閃光と爆音が襲い掛かるが、閃光で視界が真っ白になることはなかった。


 向かわせたい方向を見失わないように、雷が落ちる位置や威力を調節されている。




 走り続けて、息を切らしてどうにも走ることができなくなってその場に立ち止まると、雷が遠くで鳴り始める。

 そして、皆の耳がまともになり始めたかのぐらいの時間が経過したところで、再び雷が近くで落ちて、距離を縮めようとする。

 音と衝撃が徐々に近付いてくることが恐怖を感じさせ、皆の足を前へと進ませる。




 喉の渇きを感じる暇なく、夜空が薄らと明るくなり始めた頃に、遂に俺たちは廃都へ到達してしまった。


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