3重5
後半日ぐらい歩けば廃都に到着できる距離にまで達することができた。
今は夜になってサンドワームの仕事が終わり、俺たちはワームの傍でテントを張った。
ヴラスタリとスーヴェリアは、明日最寄りのオアシスに戻ってもらう。彼等の役目は廃都まで案内してもらうことであって、それ以上のことは依頼していない。
シェンナとダナも道案内のつもりで頼んだのだが、2人は廃都内部へ入ると言った。初めから入るつもりだったらしい。
「廃都からは別の方の依頼を受けていたみたいです」
ダナによるとシェンナが勝手に別の依頼を受けていたようだ。もののついでということだろう。ちゃっかりしている。
「神に効くかは分からんが、これも持っていけ」
ヴラスタリは背負わないといけない大きさの茶皮の袋を渡してきた。袋はたくさんの何かが詰まっていて、早速開けてみる。
中に入っていた物は、丸い形をした平たい物体だった。
見たことのない物体で、用途も全く想像できない。
「罠だ。踏めば爆発するぞ」
「危なっ」
「安心せい。簡単には爆発しないぞ」
円盤中央部分が少し尖っている面が表らしい。
表面が見える状態で地面に置き、側面から飛び出てる2本の紐を引っ張ると爆発する準備が整う。
円盤の中にはある仕掛けと何種類かの薬と鉱石の破片が敷き詰められている。踏み抜くと薬が混ざって炸裂を引き起こし、その威力で鉱石の破片が上向きに飛び散る。
聞くだけで恐ろしい代物だ。
「戦争をしに来た訳じゃないぞ」
「作れてしまったのだから仕方ない。とりあえず持っていけい」
無駄に荷物を増やされても困るが、せっかく好意で作ってくれたのに断るのは悪かったので、危険な袋の紐を締めて受け取っておいた。
ヴラスタリの言う通り、神に効くとは到底思えない。
だから、使うとしたら砂衣の魔女に対してだろう。
できるなら使わない未来になって欲しいとその時は思ったが、案外すぐに使う用事ができてしまった。
食事も終わって、明日のための準備も終わり、夜の寒さをかなり軽減してくれる便利な道具に囲まれて、眠りに就いた。
次に目覚めるのは朝だと思っていた。
目蓋を閉じても問答無用で貫通してくる閃光と、心臓を直接殴られたような衝撃で、意識が覚醒した。
閃光が一瞬で消えて、テントの外で何が起こったのかを確かめるべく、布を破るように飛び出た。
目の前に飛び込んできたのは、サンドワームの死であった。
真っ黒になって煙を上げている。
他の者も一斉にテントから飛び出て来た。シェンナは弓を構えながらやって来て、辺りの警戒を始めた。
音が何も聞こえない。
目は元の暗闇に慣れたが、耳が元の音に戻らない。音が遥か向こうに行ったきりだ。
ヴラスタリやスーヴェリアから貰った大切な物を持ったことを、しっかり確認してから、皆の名を呼びかける。
自分で喋った言葉が本当に喉から出せているのか分からない。
そこに再び閃光が炸裂した。
テントの中で目を閉じて光を感じたのと異なって、今度は直接光が目の前に迸った。
目に激痛が走り、目を開けても閉じても意味のない状態に戻る。
至近距離での光の炸裂は、身体を後ろに吹き飛ばした。
似たような衝撃と閃光を何度も経験してきたから、この光が何であるかはすぐに推測ができた。
雷だ。
雷を落とされたのだ。
意図的に雷を落とされている。
目が見えなくては、誰がとこにいるのかを確かめられない。
俺たちに直接雷を当てなかったことからも、1人ずつ分断させることが目的と推測できるが、対抗のしようがない。
『目は開けたままにして……』
砂上をのたうち回ることしかできない中で、彼女が冷静な声色で告げた。
彼女の言葉に従う他に良い手は残されていなかった。
何も見えないのでは、何もできない。
未だに視界に何も映らない状況で、彼女の指示通りとにかく目蓋だけは開いておいた。
これで良いか?
『矯正措置……』
頭の中で彼女が呟くと何もなかった視界が突然回復する。
『貴方がリリベルから貰っている魔力を借りて、強制的に視力を元に戻したわ……。治った訳ではなくて、一時的に復元しただけだから覚えておいて……』
この魔法があるなら、死ぬ前のセシルはもう少しマシな魔女生を送ることができたのではないかと一瞬思い至った。
しかし、結果として彼女が呪いに頼ってまで盲目を治したということは、きっとこの魔法では治せなかったのだろう。
『生まれた時から盲目なのだから復元のしようがないでしょ……。それより、目が見えたらやりたかったことを早くやった方が良いわ……』
まともにものが見えるようになったその時から、とっくに足は動いている。
皆一様に目を押さえてその場で身じろぎをしていない。
視界が一時的に失われていることは明らかだったので、彼等の片方の手を引き、手と手を繋ぎ合わさせる。
全員が1列に手を繋ぎ合ったところで、1番端のリリフラメルの手を取り、テントやサンドワームから急ぎ離れる。
必死に歩いていると、また雷が降り注いできた。
幸いなことに、だれにも直撃することはなかったが、雷が真近で落ちる度に皆の耳と目が機能をまともに活用できなくなってしまう。
セシルの魔法で俺だけが何とか方向を指定することができたが、この状態をいつまで保っていられるかは分からない。
セシルにも周囲の景色を共有してもらえるように、皆の先導をしながらもゆっくりと首を回してみたが、彼女も怪しい影を捕捉するには至っていない。




