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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
521/723

3重

 休息の日が終わって、いよいよ更に隣のオアシスへ向かう日となった。


 宿屋の前にはシェンナとダナの他に2人の男がいた。

 廃都に向かう途中までの道のりの道案内役として彼女たちが雇ったようだ。

 彼女たちの仕事で1度雇われた者たちであるため、4人は仲良く語り合っていた。


 1人はスーヴェリアという。

 竜人(リザードマン)である彼は全身を鱗で覆っていて、首は長めだ。

 彼が着ているスボンは両足の他に尻尾を通す口もある。乾燥には強いと豪語しているが、尻尾を含めて鱗の露出は少なめだ。

 髪はないが代わりに均等に並んだ硬そうな棘が生え揃っている。目は人間とは違って、光に当たると瞳孔が縦筋に鋭く伸びるので、どこか怒っているように見えてしまう。

 若干、発声し辛そうな声の出し方をしていて、声を多用する種族でないことが窺えるが、意思の疎通は十分に取ることができる。


 もう1人はヴラスタリという。

 ドワーフ、つまり小人族である彼はその種族の名の通り、大人でも背は小さく、俺の背丈の半分程しかない。

 頭や腕、胴回りなど全ての部位は、太く広くがっちりとしている。

 頭が良く物作りに関しては、他種族では見られない画期的で斬新な発明をすることでも知られていて、魔女がいなければ彼等の開発した道具が時代を変え続けると言われている程だ。


 そんなヴラスタリは顔の半分程が髭で埋まっている。何もしなくても汗が噴き出てしまうような過酷な環境で、彼の出で立ちは最適とは言えない。

 それでも彼が髭を蓄えるのには何かしらの意味があるのだろう。


 深くは聞かない。


 2人とも見た目は戦い慣れしていそうだが、何十年という単位で命を奪い合うような戦いをしたことはないと言っていた。ネテレロという争いの起きにくい環境で生きているからこその状況で、致し方のないことだろう。

 むしろ戦いに身を置く必要がないことを誇るべきだとさえ思えた。


 あくまで2人の役割は、廃都までの道案内とネテレロ独特の文化を教えてもらう専門家に留まる。




 シェンナだけを会話の輪から遠ざけさせて、尋ねる。


「昨日払った金だけで足りるのか?」


 てっきりシェンナとダナだけが、この道行きに加わる一員だと思っていた。

 だから、スーヴェリアとヴラスタリの2人が更に加わって、もしかして報酬が不足しているのではないかと心配になってしまった。


「全然。アイツ等を雇うことも含めて報酬額を提示したから、問題ない」


 それなら安心した。

 シェンナが強がって無理をする性格ではないことは分かっているので、彼女の言うことは本当だと信じることはできた。気兼ねなく後腐れなく接していける。




「へえ、嬢ちゃん、あー……アレの精霊と人間の混血かい。どおりで魔力がドバドバ漏れ出てる訳だ」

「勿体ないな」

「魔力が漏れ出ているのは別の理由だ。後、嬢ちゃんじゃない」

「俺の歳からすりゃあ嬢ちゃんは嬢ちゃんだな」


 ヴラスタリは、魔力感知の能力が高いことはともかく、どういう訳かリリフラメルの種族を言い当てた。

 横にいたスーヴェリアは、鋭い目でリリフラメルの顔を見ながら腕を組んで感心している。


 リリフラメルは相手が悪人か極端に自分を苛立たせる者でなければ、普通に接してくれる。

 怒りをなるべく抑え込んでくれるようにリリベルが教育をしたおかげで、出会った頃と比べて会話が成り立つようになった。


 ただし、それでも怒りが湧かないかと言えば違う。

 相手がどれだけ丁寧な言葉で話そうと、心中では怒りを感じてしまう。下手をすれば「はい」とか「いいえ」とかのたったひと言の返事でさえ彼女は苛立ちを覚えてしまう。




 ちなみに、俺とリリベルには此方から意図的に挑発しない限り、リリフラメルは極端に怒りを発露させることはない。


 彼女の両親の仇を殺す機会を奪った俺に対して、彼女は非常に恨んでいる。

 故に彼女は、俺が苦しむ姿を常に待ち望んでいる。

 彼女自身の正義感に照らし合わせて、彼女にとっての正しいと思える行動を俺が取っていく中で、壁に当たり苦しむことを望んでいるのだ。


 そして、俺は何度も壁に当たって苦しんできた。

 足りない力で無理に何かを達しようとすることで、あられもないでは済まされない醜態を彼女に晒してきた。

 彼女は、その醜態が収まった景色を記憶に刻みつけて、時に思い出しては復讐心という最も強い怒りを発散させているのだ。


 だから俺が彼女と接していても、彼女は怒りを爆発させない。いつでも俺の醜態を思い出して、復讐の怒りのついでにその時に生まれた他の怒りも発散させているおかげだ。


 ではリリベルに対しても同じ感情を持っているのかと言えば、それは違う。

 勿論、ノイ・ツ・タットで出会ったばかりの頃は、リリベルに対しても八つ当たり気味の復讐の怒りを煮えさせていた。

 だが、すぐに彼女はリリベルに懐いた。


 どうやらリリフラメルは、リリベルを家族として見ようとしている節がある。それは母でもあり、姉でもあり、妹でもある。

 時には甘え、時には無邪気に遊び、時には世話をしたがる。

 失った家族を求めた彼女の心が、彼女を壊さないように、リリベルに家族性を見出してそうさせたのかもしれない。


 俺に髪を切ってもらうのとリリベルに髪を切ってもらうのとでは、理由も感情の正負も異なるのだ。




 ただ、1つだけ確かなことは、俺とリリベルがリリフラメルに出会ったことは無駄ではなかったということだ。

 負の感情の発散も正の感情の発露も、彼女にとっては必要なことだからだ。


 ノイ・ツ・タットで燐衣(りんえ)の魔女として、怒りの感情を際限なく増やし続けてしまっていたら、きっと最後には彼女の心は壊れてしまう。

 呪いによって感情の増幅に際限がなくなったとしても、心が耐えられる傷の数と深さには際限がある。つい最近、実感したことだ。

 何が原因で実感できたのかを思い出すことは全くできないが、とにかく実感はした。


 こうして思い返してみると、俺はリリフラメルを少しは救うことができているのではないか。

 自賛は好みではないが、こういう時こそ素直に自分を認めることも大事だとリリベルから教えられてもいる。心の中でうんうんと頷くぐらいは、きっと彼女も許してくれるだろう。


「なーにへらへらと笑ってんだ、腹が立つ。もう出発するんだろ?」

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