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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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3種類の雨8

「しっかし、アンタ……久し振りに見たら老けた?」

「え、俺?」

「そう、アンタ」

「失礼な。まだまだ若いぞ」


 自分で言うな、と心の中で自分に言う。

 ちなみにセシルにも『自分で言うな……』と言われた。


「それに、あの変な言葉遣いの魔女はいないの?」

「ここにはいない。隣のオアシスで弟子に魔法を教えている最中だと思う」

「へえ。大人になったじゃない」


 大人か。

 何をもってして大人と認識されるのか、正直良く分かっていない。

 年齢的にある歳に達すれば大人になったと評価する方法はあるが、それはその国の決まり事に則ったものであって、彼等が評する大人そのものがどういう状態なのかは不明のままだ。


 以前、リリベルにそう言われてから、彼女と同じ考え方になってしまった。


 今、シェンナがリリベルを大人になったと評してくれたが、俺は彼女のどの辺りが変化して大人と呼ぶ存在になることができたのか、理解できていないままだ。


 手っ取り早く、どうすれば大人になるのかをシェンナに聞けば良いのだろうが、恐らく聞くことはないだろう。

 何となくだが、彼女に聞くことは大人ではない気がする。




「で、そっちの珍しい髪色をした彼女は誰?」

「俺に恨みを持っている旅の仲間だ」

「意味が分からないわね……」

「俺も自分で言っていてそう思う」


 リリフラメルは自らの両手両足を見せつけて、本物の手足でないことを2人に教えてやった。

 ダナは口に手を当ててあわわと言い出して、彼女に対する同情を爆発させる。


 しかし、リリフラメルに過度な同情を与えることは彼女の怒りを買う。

 小さく貧乏揺すりを始めたリリフラメルの膝を、2人に見えないようにはたく。


 彼女の詳細を語るには、1日では語り切ることができない。

 だから、仲間であることだけは前面に押し出して伝えて彼女の紹介を終えさせてもらった。




「ヒューゴさんたちはなぜこのオアシスに来たのですか?」


 ダナは空いたコップに買ってきた瓶の飲み物を注ぎながら、そう尋ねてきた。

 ドニルと同じように、砂色のマントを羽織った魔女を探していると答えると、2人の表情がすぐに変化した。砂衣(さえ)の魔女を知っているみたいだ。


「会ったことが、ある。アンタも見ていたよな?」

「はい、見ました。廃都で人の影を見るなんて思っていなかったので、はっきりと覚えています」


 2人で目撃した砂衣の魔女を確認し合っているところで、ダナの言葉に食い気味に「廃都で!?」と叫んでしまった。

 過敏に反応したために、シェンナの金色の髪が跳ね上がり尖った耳がピクリと動いてしまう。

 ダナに至っては浅黒い肌が大きな音を立てて、机の下に隠れてしまった。額に生えた1本の角だけが机から覗かせていて、痛みに喘いでいた。


「す、すまない。驚かせるつもりはなかった」

「まあ、気持ちは分からんでもないけれどさ。ここから廃都までは、道が分かる奴が行っても10日程は掛かるし」

「ぶはっ!!」


 10日という言葉を聞いたリリフラメルが飲み物を吹き出して咳き込んだ。

 気持ちは分かると彼女の背を叩いて彼女の呼吸を平時に戻そうとしてやる。道が分からない奴ならもっと掛かると言っているのだから、酷い話だ。


 昨日聞いた砂衣の魔女の目撃情報が最新の情報であることを祈るしかない。

 こういう時は、ここではどの神に祈れば良いのだろうか。今日の夜にも極光する神(セウラス)が再び出てくれたら、それに祈ろう。




「ヒューゴ、どうする? 廃都とやらまで行く気?」

「隣のオアシスで見つからなかったら、行くしかないだろう」


 俺とリリフラメルで密かに話しているところに、シェンナが割って入ってきた。


「私たちがアンタたちを目的地まで連れて行ってやろうか?」

「良いのか?」

「勿論、もらうものはもらっていくけれどね」

「この依頼の相場が分からないが、幾らだろうか?」

「銀貨3ま――」


 せっかく椅子に座りかけようとしたダナをシェンナが蹴って彼を再び机の下に転ばせた。


「命を落とす可能性だってあるんだから、金貨10枚ぐらいないとやっていけないよ」


 恐らくだが、ダナの言い値とシェンナの言い値の間ぐらいが適正価格なのだろう。

 ダナは優しすぎて俺たちに利を与え過ぎている気がする。対してシェンナは常に勝ち気で豪胆な性格だから、報酬の上乗せをするぐらいのことは平気でやってのけるはずだ。


 ただし、俺は2人の言い値で頷かない。


 数多の神と対峙する可能性を考えると、金貨10枚でも安いと思っていた俺は、元々2人の提示する額より上を言ってやろうと思っていたのだ。


「どうしてもすぐに砂色のマントを羽織った魔女に会わなければならないんだ。金貨20枚出そう」


 シェンナは目を見開いて驚くが、満面の笑みに切り替わって俺に手を差し出してきた。


「決まりだな?」

「ああ、頼む」


 尻を痛めるダナを尻目に、俺とシェンナは契約の締結を表す握手をした。


 報酬を払うだけで済むならこれ程分かりやすい話はない。後腐れはないし、見知った者たちだから気を使うこともない。

 願ったり叶ったりである。


 ただ、リリベルへの報告が更に遅れそうになって気に引っ掛かることができてしまった。

 彼女を極力心配させたくない。

 どうすれば良いかと思案していると、今度はダナが提案をしてくれた。


「ヒューゴさん。オアシスからオアシスに手紙を送る商売があるのを知っていますか?」


 その商売はある程度の文化を持つ国ならどこにでもある。ただ、配達員の存在をすっかり失念していたので、彼の提案はありがたかった。

 彼の言葉に感謝して、早速手紙を書こうと思った。


「いつ出発するつもりだい」

「明日には出発したい」

「余程急いでいるようだね。ダナ! いつまで寝てんだ! すぐに旅の準備をするよ!」


 俺とリリフラメルが宿泊している宿屋を集合場所に指定して、シェンナたちは早速旅の準備を行うことになった。

 彼女が先に店を出て、ダナは尻をさすりながら彼女の後を追って行った。


 その様子を見届けながら、極光する神(セウラス)に祈った甲斐があったと心中で喜んだ。

 特にシェンナは腕の立つ魔法剣士で、もし戦いがあった時にはとても頼りになる。


 今日は更に気分良く過ごせると思った丁度その時に、セシルとリリフラメルがほぼ同時に同じような意味の言葉を俺に向けて放ってきた。


『砂衣の魔女に誘い込まれてない……?』

「砂衣の魔女の罠ってことはないよな?」



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