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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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3種類の雨6

 ドニルと行動を共にして1度目の夜は、黙する神(シーゲア)に出会してしまったが、2度目の夜は無事に過ごすことができた。


 渇く神(エレーミア)にも会うことはなく、2度目の夜を過ごして3日目に隣のオアシスにようやく到着することができた。




 1つ目のオアシスまでの道行きも含めて、さすがに疲労が蓄積してきた感覚があるので、明日は丸1日休みを取って、万全の状態でリリベルのもとへ戻ろうと思う。


「お前が身体を酷使させずに休みを取ると言い出すなんて、どういう風の吹き回しだろ」

「リリフラメルが心配だからに決まっているだろう」

「このぐらいで私が使い物にならなくなると思ってる?」

「この数日間、魔道具の義足や水を生み出すために、常に怒り続けて魔力を生み出さなければならない状況になっていただろう?」


 例え身体が疲れていなくても、精神は休ませる必要がある。

 レムレットで精神を摩耗した俺は学んだのだ。


「それに怒り続けるのは肌に悪いぞ」

「アイツと同じことを言うなよ」


 アイツとはリリベルのことだろう。

 2人揃って彼女に小言を言うと嫌われてしまいそうだから、それ以上は言わないでおくことにした。


「とにかく、明日は休もう」


 リリフラメルは今の俺たちにとって生命線だ。

 勿論、彼女自身の体調も心配だし、俺だって少しは休まなければならない。


 お互いに死なずの身体に甘えて、これまで無茶をしすぎた。一刻も早く砂漠の拡大を止めなければならないことは変わらないが、一方で万全の体調で望むことも事を成すのに必要な条件であることは変わらないはずだ。


「ドニル、感謝する。本当に金銭を受け取ってはくれないのか?」

「気にしなさんな。これで俺も気にかかることがなくなって、夜はぐっすり眠ることができるだろうさ」


 彼はそう言って、もう1度リリベルがいるオアシスに向かうに必要な道具を買うために、小さな市場へ向かって行った。


 また会えるとでも言わんばかりのあっさりとした別れ方であった。

 なぜか不思議と気分は良かった。




「あ、ついでに寝泊まりできる場所を聞いておけば良かったんじゃ?」

「あ」


 リリフラメルに言われて気付いた。

 しかし、せっかく気持ちの良い別れ方をしたドニルを再び呼び止めるのは、彼に悪いと思って行動には移さなかった。


 リリフラメルに「なんでだよ」と突っ込まれるが、彼女を納得させる(もっと)もらしい言葉がすぐに浮かばなくて、つい格好がつかないと言ってしまった。


 まるでリリベルみたいな言い訳だと、言いながら思っていたらリリフラメルにも「アイツみたいなことを言うな」と言われてしまった。

 思わず笑ってしまった。




 オアシスの住人に聞き取りをしている内に興味深い情報を入手できた。


 砂と同化して紛らわしい者を、更にまた隣のオアシスで見たという者がいたのだ。

 オアシスに住む者の数など知れているため、流れ者であることは明らかだと言うのだから、行ってみる価値は大いにある。




「このまま次のオアシスに行くつもりか?」

「そうだな。本来ならリリベルに報告したいところだが……」


 行って戻るだけで5日はかかることと、神に出会う回数を増やしかねないことになるのが気がかりだ。


 今回はドニルという男がたまたま察知してくれたから良かったものの、砂漠に住む者が持つ危機に対する察知能力がまだない俺たちだけになれば、次はどうなるかは分からない。


 本で読んだのと実際に出会うのとでは全く違うことを、今回は思い知らされた。


「ドニルがオアシスを行き来するために必要な道具を買い揃えに、市場に行っていただろう? 俺たちも買いに行こう」


 荷物をかさ張らせることなく、割と気持ち良く夜を過ごせる寝具があるなら、是非買っておきたい。

 凍える夜に耐えずに済むようにしたい。


 そうして、2日後の移動のための準備をその日の内に済ませた。




 オアシスからオアシスを移動する者のために、宿屋があったことは幸いであった。

 基本的に、住人がよそのオアシスに移動することはそう頻繁にあることではないが、それでもゼロではないため、宿が必要とされる。

 勿論、客が来なければ宿として成り立たない。

 だからオアシスの住人全員が協力して、宿が存続するように金銭的な支援をしていることもあって、()()の宿として今も続けられているのだ。


 宿屋なんか果たしてあるのかと内心は不安で一杯だったが、これでひと安心できる。




 やるべきことが終わると途端に暇になった。

 普段ならリリベルが暇をつぶす余裕すら与えない程の事件を用意してくるので、どうやって時間を消費するか考えずに済まなかったが、今は彼女が傍にいない。

 趣味の1つでも作っておけば良かったと思った。


「じゃあ髪を切って」


 目が前髪で隠れる程に伸びていたリリフラメルが、背を向けて俺の方に迫って来た。

 彼女の髪が伸びる速度は、この特殊な環境では辛い特徴となってしまうから、可哀想ではある。




 宿の部屋の中なら人目を気にすることはないだろう。

 断る理由もないから、すぐに鋏を具現化して彼女の髪の手入れを行った。


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