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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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3種類の雨

 すっかり辺りが明るくなってきて、光を避ける場所がなくなり汗は滝のように流れ始めた。

 自分の汗臭さを気にする気力もない。


 リリフラメルでさえ海中に水滴を付けて歩いているのだ。

 彼女は肩より下まで伸びていた長めの青髪を1本に纏めている。いつもの爆発したような髪型も、この環境下では綺麗に下がっているように見える。


 勿論、彼女の苛立ちは常に高い状態を維持している。

 いつもの魔法を使えない苛立ちも相まって、無言の暴力という八つ当たりがたまに襲いかかってくる。ちなみにこの行動はリリベルがいない時を狙って行う訳ではなく、彼女がいる時でも行う。卑怯な八つ当たりはしない。


 いや、そもそも八つ当たり自体しないで欲しい。




 隣のオアシスへの行き方は簡単だ。


 朝は影の向く方向とはほぼ真逆に進み、昼は影が真左を向くように進む。

 だが、それは1日中進みたかったらの話であり、本来は昼中に歩き回るべきではない。住人がそう教えてくれた。


 では夜はどのように進むのか。


 答えは夜は進まない、である。

 進むための(しるべ)がないとか、夜は体力を温存するための時間だとか、分かりやすい理由ではない。


 夜は昼とは違う神が現れる。

 だから進んではならない。


 正直に言ってしまえば、予想していた納得できる言葉とは異なっていたので、いまいち釈然としていない。


 ただ、そもそも夜には移動する気はなかった。昼の環境と夜の環境とで対応できることに差があったからだ。


 明るい時分には、喉の渇きと光に注意さえすれば良くて、その2つを耐える術はあった。

 対して夜の寒さを耐え抜く魔法と装備はない。身体をホッとさせるアレを生み出す魔法が一切使えないことも相まって、最初から俺たちには、じっとそこに留まって朝を待つ以外に手はないのだ。

 人間の生活に密接的で、リリフラメルにとっても命と同じぐらい大事な()()である。


 一応ではあるが、どうしても進みたかったら、星を見て進めば良いということを教えてくれた住人もいた。

 見るべき星々の角度と距離から進むべき方向を推測することはできるようだ。幸いにも星に対する理解はある程度持っている。

 万が一、夜に移動しなければならないという状況に陥ったとしても、闇雲に逃げる悪手を取ったりはしないだろう。




『目的地への行き道は私も手を貸してあげるから、安心して……』

「そうだな。頭の中に勝手に住み着いているのだから、賃料代わりに働いてもらわないと困る」


 頭の中にいるセシルは水が張られた桶に両足を突っ込んで、風が吹く魔力石を顔に浴びせながら、冷菓子を頬張っていた。

 今までに見たことがないから想像しようのない、肌を晒すに晒したセシルの姿は、決して俺の妄想の産物ではないと確信させる。


 快適そうに涼むセシルに少々腹が立って、不意に彼女が足を入れる桶の水が砂に変わったりしないかを想像してみたりした。

 当たり前だが、俺の頭の中で繰り広げられている出来事なのだから、想像の通り、桶は砂まみれになった。


『あっっっ……!!』


 俺たちが必死に歩き回っている砂に、両足を突っ込むことになったセシルは、慌てて両足を桶から抜いた。感じていた温度も据え置きである。


「良い気味だな」

『いつからそんなに性格が悪くなったのよ……』




 休憩時には屋根になる物を具現化してみたりした。

 4つの木の棒を砂に挿し、それぞれに括り付けて広がっている布が屋根代わりになる。

 初めは楽に想像できる黒い不定形の物体を屋根代わりにしていたが、すぐに止めることになった。黒が光を吸収して、その下にいる俺たちを料理し始めたからだ。危うく死ぬところだった。


 日中に黒色の物を具現化することはやめようと思った。




 リリフラメルから水の入った魔力石を手渡されて、それを素早く口元に持って行き、一気に放出させる。

 顔や身体を洗い流しながら水を飲む。お行儀良く布を濡らして身体を拭いたり、コップに水を注いで上品に飲むことは、ここではしたいとは思わない。


「リリベルに怒られるぞ」

「え?」

「アイツ、『リリフラメル(わたし)が真似したらどうするのさ!』って注意していただろ」

「ああ、そうだったな……」


 すっかり忘れていた。

 だがすまない、リリベル。魔女の居ぬ間に何とやらである。行儀は気にせずに水を浴びる。




 水を飲み、憩いのひと休みに精神を安らごうとしていたところだった。

 風を感じた。


 この地では感じてはならない空気の揺らぎを感じた。


 気のせいにしたいところだったが、テント代わりの布が揺らめいていた。砂に挿さった4本の棒が僅かに揺れた。砂が細かくポロポロと此方に向かって転がってきた。


「リリフラメル」

「風じゃん」

「やり過ごす準備を」


 リリフラメルの手を取って2人立ち上がり、念のためもう1度信じてもいない神頼みをしておく。


潤わす神(ヒュドール)よ、どうか俺たちを守ってくれ」


 そして、リリフラメルが水の魔法を詠唱してその場に水を放出し続けて、俺は濡れた砂を必死に掘り起こす作業に移った。


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