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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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2人の黄衣の魔女9

 行き当たりばったりの行動が非常に危険なことは百も承知だ。

 こうして理想を追い求めている間に、あらゆる種族が息絶えてしまう。ふざけている場合ではないし、悠長に構えている場合でもない。




 これで、より被害を拡大させる結末を迎えてしまえば、ラルルカが心の隙をこれでもかと突いてくるのだろう。


 渇く神(エレーミア)の力を抑え、砂漠の広大化を止める算段は何1つ立っていないが、ここまできたらやるしかない。




「明日、俺とリリフラメルで隣のオアシスに行って、砂衣(さえ)の魔女を探してみる。少なくとも奴が見つけないことには話が進まない」

「ちょっと待て。そこの魔女はどうするつもりだ? まさかここに置いて行くとは言わないだろうな」

「その通りです」

「勘弁してくれないか……」


 レオスが机の上で両手を覆って、うんざりとした様子を見せる。

 だが、2人にとってもリリベルはこの家にいてもらった方が良いはずだ。


「それなら彼女にも付いてきてもらうが、それだと……」

「私も一緒に行きたい!」


 カルミアが大きく手を上げて宣言した。

 目がキラキラと輝く彼女に対して、レオスは更に頭を垂れて、面倒な問題に対処しなければならないことに疲弊の色を表した。


「粗茶ですが」

「あ、お構いなく」


 焦るレオスに対してカルミアの母ハルシーは、あくまでマイペースだった。






 結局、ひと晩を明かす宿としてカルミアの家にお邪魔をさせてもらった。


 夜が明けてアレが地平線から顔を覗かせたところで、俺とリリフラメルは出立した。




 結局、リリベルはカルミアの家で過ごし、決めていた通りにカルミアに魔法を教えることになった。

 彼女に付いて行こうとするカルミアが、危険な目に遭わない可能性がゼロではないことを悟ったレオスは、仕方なくリリベルを家で過ごさせることにしたのだ。

 もっとも、レオスが許したのは、家での滞在だけで彼女がカルミアに魔法を教えることは許可していない。


 だから、恐らく2人は秘密裏に魔法の伝授を行うのだろう。




『ヒューゴ君。くれぐれも砂衣(さえ)の魔女のことを殺さないように頼むよ』


 出立前のリリベルの言葉だった。


 散々、奴と派手にやり合ったというのに、なぜ今更砂衣の魔女を殺さないように指示を出すのか。当然、疑問に思って彼女に尋ねた。


『数ある魔女の中で彼女は、唯一時間に関する魔法を扱う魔女なんだ」

「それはつまり、私に死なずの呪いをかけ、代償として自らの時間を捨てたダリアを救う方法を持っていそうな存在でもあるからね」


 本当の父母を失ったリリベルの代わりの育ての親でもあり、魔法の師でもあったダリアの名がこんなところで出てくるとは思わなかった。


 そして、止まったダリアの時間を再び動かせる人物であるかもしれないと、今になって初めて明かされた。

 列車で奴と出会った時、俺は躊躇う気など一切なく奴を殺そうとしていたのだから、あらかじめ言っておいて欲しかったとも思う。


 だが、それらの重要な事柄をあっさり掻き消してしまうような強烈な言葉が、その後に続いたおかげで、砂衣の魔女とダリアのことを胸に留めていられるか不安になってしまいそうだった。


『それともう1つ』


『無事で帰ってくるのだよ? ()()()?』


 言葉だけでも鼓動を跳ねさせるに十分だったが、彼女はその言葉と同時に指輪を見せつけながら胸元に寄りかかって来た。

 しかも、抱きつくのではなく、指で小さく服を(つま)んで上目遣いで、僅かに微笑んでくるのだ。


 いつもの天真爛漫な彼女の雰囲気から大きく外れた、お(しと)やかで儚げな雰囲気は余計に心臓を掴まれる気分にさせられた。


 恐ろしい女性だ。




 惜しむらくは、この感情を他に知る者が頭の片隅にいるということだろうか。




『いつまでも鼻の下を伸ばしていないで……オアシスを出るのだから集中して……』

「わ、分かっている」


 俺だけにしか聞こえないセシルの言葉に返答すると、漏れなく周囲の者が俺を奇異な目で見てくる。

 今ならリリフラメルだ。


 俺が独り言を吐く事情を彼女は知っているが、それでも信じてはくれていない。


 先日も言っていたが、セシルが頭の中で存在しているという証明ができない以上、彼女たちは半信半疑のままだろう。


 魔力感知が得意なリリベルはともかく、その他の魔女はセシルの魔力を感じ取ることは難しいようだ。




 故に俺は頭の中に別の誰かがいると呟き回る狂人としか捉えられない。




 肩身が狭い。




 オアシスを1歩抜けて、ぬかるみのような砂漠に足を踏み入れると、一気に汗が滲んでくる。


 オアシスの心地良さが嘘のようになくなっていた。

 水辺が近くにあるかどうかで、ここまで快適さに違いが出てくるのかと驚愕せざるを得ない。


「リリフラメル、昨日渡したお守りはしっかりと持っているよな?」

「この頼りない紙切れでだろ? 持ってる持ってる」

「それをしっかり携帯していなければ、渇く神(エレーミア)に見つかるぞ」

「お前のお手製でなければ、信用できたかもしれないけれどな」


 昨日、オアシス中を回って得た情報の1つを形にした物がこの1枚の紙だ。

 といっても渇く神(エレーミア)が水と繋がりの強い神を表す紋章を描き込んだだけで、特別魔力を流し込んだりなどはしていない。

 模様があるだけの紙である。


 オアシスを行き来する者はこの紙を持つことで、渇く神(エレーミア)の災難から逃れられることができると言っていた。

 オウトマチック一家も同じように、他の住民が話していたことを正しいと頷いていたので、揶揄われている訳ではないことは確かなようである。




 問題は、俺の手で描かれた紋章が正しく機能するかどうかである。


潤わす神(ヒュドール)よ、どうか俺たちを守ってくれ」



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