2人の黄衣の魔女7
カルミアの住む家近くまでやって来てから、リリベルの大声ですぐに彼女がどこにいるのか分かった。
家の扉を叩いても反応がなく、3度目の無反応で仕方なく扉を開けて中に入ると、大声が飛び出て来る。
「君は娘の成長の機会を奪う気なのかい!」
「駄目だと言ったら駄目だ! 幾ら名の知られた魔女だとしても、魔女の歪な考え方など、うちには必要ない! 娘に少しでも変なことを吹き込んだら俺が許さないぞ!」
「君のような人間を老害と言うのだよ! 前時代的な生き方は、遠くない未来で血を絶やすことを知らないのかな!」
カルミアの父とリリベルが喧嘩していた。
『へえ……人間は怒る時にこういう顔をするのね……』
感心するセシルに頭の片隅に追いやってから、リリベルに近付き落ち着くように言い聞かせる。
「誰だお前たちは!」
「彼女の従者です」
「帰れ!」
「お父さん! 師匠に向かって帰れはないでしょう!」
カルミアとリリベルは机を挟んで激しい議論を重ね合わせていたらしい。
2人のうちのどちらかがコップに入った水を空けると、即座にカルミアの母らしき人物が水を注ぎ、注ぎ終わるとまたぐびぐびと飲み始める。
それだけ2人は怒鳴り合っていたのだろう。
息巻いて言葉を捲し立てて、しばらく五月蝿い2人だったが、声が大きく近所迷惑であることを伝えると、話を聞いてもらえるぐらいには落ち着いてくれた。
その機を逃すまいと、俺たちがこの地に来た理由と、ここにリリベルが訪ねて来たあらましを伝える。
俺が話終わる頃には、彼も平穏であった。
魔法使いの両親と言うだけあって、魔法に使いそうな得体の知れない道具が棚に並べられている。
今は遠いリリベルと共に住んでいた家で見たことがある物もあった。
魔法に関する道具たちに囲まれる中で、食卓机に俺たち全員が座って話し合っている状態だ。
カルミアの父はレオス、母はハルシーと言うことは分かった。
2人とも土地柄なのか、肌は小麦色だ。病的な肌色という訳ではなく、程良く色付いた肌色をしている。
レオスは渇く神に関する話題に興味を持ったようで、すぐに質問攻めを開始してきた。知りたいことをとことん知り尽くそうとしてやろうという手法は、この親にしてこの子ありと言ったところだろうか。
「粗茶ですが」
「あ、お構いなく」
ハルシーは最初から平穏で、2人の喧嘩の最中も笑顔で飲み物を注いでいた。逆に不気味である。
「それで、ヒューゴさん。渇く神を殺すなんて大それたことを成そうとする理由を教えて欲しいのだが」
俺たちがなぜこの地を訪れて神を倒すという大それたことをしなければならなくなったのか。
それはこの砂漠の外の世界に理由がある。
現在、亡国ネテレロを覆っていた砂漠は、他国へ広がりを見せている。
それも驚異的な速度でだ。
たった半月で隣国の土地全てが砂へと変貌した。
短期間で砂漠化したその国は、砂漠特有の生活に対応できずに多数の死者を出し、亡国となった。
1ヶ月でネテレロの3倍程の大地が不毛になる。
命の雫1滴すら砂上で十分な生涯を遂げることなく、砂になるのだ。
砂漠化の異様な郭大の速度は、世界を危機に陥れようとしている。
このままでは地上は草木も生えぬ砂の世界になってしまうだろう。
いつものことだ。
砂の世界の侵食は、俺とリリベルとの平穏を乱す。何人足りとも彼女の平穏を乱してはならない。乱させてはならない。彼女との幸せな生活を得るために、この地にやって来たのだ。
この国の神が原因であることを知るに至ったのは、多くの書物を読み漁ったおかげだ。
書物に詳しいリリベルのおかげで、渇く神にまつわる文献には短期間で辿り着くことができた。
突拍子もなくあり得ない出来事を起こせる存在は、往々にして常識で計り知ることのできない存在なのである。
広がっていた砂漠の中心に焦点を合わせて、そこにまつわる伝承を調べるべく、伝承を多く取り揃える書店を紹介してもらい、目ぼしい本を持ち帰る。
その本から得た情報をもとに、彼女の知識と思慮深さを活用してもらい、砂と関係のある神を特定とそれが広がる問題の原因を推測した。
そして、神が起こした現象を目の当たりにして、想像はほぼ確信へと変わった。
「だから、この世界全てが砂に変わってしまう前に、神を倒さなければならないと思っています」




