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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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2人の黄衣の魔女5

 だが、リリベルの行動は迂闊であった。

 彼女の見栄の張りたがりな性格が災いして、余計な問題が起きてしまった。


 カルミアは、リリベルが真に黄衣(おうえ)の魔女であることを確認するために質問を重ねてきた。

 その質問に彼女が答える度に、カルミアの目は輝きを増す。

 砂衣(さえ)の魔女を探す間も彼女は俺たちの後を付いてくるのだ。


「私を貴女の弟子にして欲しい!」


 挙句の果てにはこれだ。


「えー、どうしようかなあ」


 そして、リリベルはこれだ。

 彼女を慕う初めての魔女見習いとの出会いに、鼻の下を伸ばして気持ち悪い身動きを伴いながら俺の回りで踊っている。


「ヒューゴ。どうすんの、これ」

「どうすると言われてもな……リリベルに任せるしかないだろう」


 リリフラメルはその身に受けた呪いによって身の回りの僅かな変化すら苛立ちを生む。

 初対面の者が付き纏ってくるという状況になれば、過敏に反応して目つきを悪くし始める。心なしか青髪が逆立っているようにも見える。




「私に詳しいのなら知っているでしょう? 私は今、黄衣の魔女ではないよ」

「それは分かっているよ! でも、貴女の弟子になりたい!」

「ふーん。へえー。そっかー」


 目蓋ってそんなに垂れるのか。


「そもそもなぜカルミアは黄衣の魔女にそこまで憧れる? 彼女に魔女としての活躍で目立ったものはそこまでないはずだが」

「ヒューゴ君って時々酷いことを言うよね」


 リリベルに比べたら優しい方だと思う。


「雷を見たんだよ。赤い雷を。とても綺麗だった」


 彼女はうっとりとした表情で、雷を見た時の情景を思い浮かべるように天を仰いだ。

 赤い雷というと『赤雷(せきらい)』という魔法だろう。リリベルが程々に本気を出した時に使う魔法だから、見られる場所は限られている。


「うちは魔法使いの家系なんだよ。母も父も魔法使い。幼い頃から2人に魔法のいろはを教えられてきた」


「でも、正直魔法なんて興味はなかったんだよ。生活が便利になったり、身を守る手段が増えたりすることは良いことだけれどね」


「でも、その程度の利便性しか感じられなかったから、進んで学ぶ気はなかったよ」


 カルミアは大きく手を広げて感情を爆発させる。


「ずっと遠くから見えたんだ! 遥か向こうに空と大地を貫く赤くて巨大な(いかづち)がね! それが魔法だっていうことをお父さんから教えてもらった時は驚いたよ」


「効率的な魔力の運用を研究され続けてきた味気ない魔法。より早く、より魔力の消費を少なく、より詠唱は簡素で分かりやすく研究されていく中で、貴女の魔法は全くの真逆をいっていた!」


 それは褒めているのだろうか。


「魔法に美しさは必要ないはずなのに、貴女の魔法は美しく見せようとしていた。浪漫を追い求めているって感じたんだよ!」


「お父さんとお母さんに聞いて、赤い雷を放つ魔法使いが誰なのか教えてもらったんだ」


「初めは貴女が魔女だって言うことを聞いて驚いたよ。魔女って言えば皆の敵だもの。殺しても良い奴等だって教わってきたから!」


「でも、黄衣の魔女のことを調べれば調べる程、殺して良い人だなんて思うことはできなかった! だって、貴女は色々な国に行って困っている人たちを何人も助けてきたのでしょう?」


 まさかこのようなところで、リリベルの評判のために行ってきた人助けの成果を感じられるとは思わなかった。

 しかし彼女は、最近のリリベルと俺がどれだけの悪事を働いてきたのかを知らないのだろうか。今のおれたちは、他者から見れば、人助けの延長線上で数え切ることのできない犠牲を生ませた大悪党のはずだ。


 彼女こそ憧れが行き過ぎて、リリベルと俺の黒い部分を見て見ぬ振りをしていないだろうか。


「弟子にできなかったら、貴女の使う魔法を教えて欲しいよ! 『瞬雷(しゅんらい)』だって既存の電撃を放つ魔法を改良してそれに近付けただけのものなんだよ」

「ふふん、君は中々見所がある魔法使いのようだね」




 遂にリリベルが鼻を鳴らしてしまった。


「魔法ばかりに目を向けているが、リリベルの内面を良くは知らないだろう。後で幻滅しないためにも悪い面も知っておいた方が良いぞ。例えば彼女は幽霊がきら……いっ!?」


 いつの間にかリリベルが俺の胸元に潜り込んでいて、脇の下の肉を思い切り(ねじ)られた。無意識に声を上げてしまうような部位を、彼女は的確に狙って俺を黙らせてきた。


「ヒューゴ君、決めたよ」

「はい」

「私は彼女に魔法を教えるよ」

「はい」




 リリベルはカルミアの自宅に向かうことになり、そこで彼女に魔法の修行をつけることになった。

 砂衣の魔女探しを目的としていた俺は、リリフラメルと共に続きの作業をすることになる。この結果に今いち釈然としないが、仕方あるまいと言い聞かせる。


 彼女たちが意気揚々と向かう様をしばらく見つめていたら、頭の中でセシルが突然ぴしゃりと言い放った。


「嫉妬しているの……? 彼女のたった1人の従者という立ち位置が奪われそうになって危機感を抱いているの……?」


 決して図星ではない。

 上手く言葉にできない行動に表すまでもない苛立ちはあったが、絶対にリリベルとカルミアたちとは関係ない。


 もう1度言うが図星ではない。


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