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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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2人の黄衣の魔女4

 周囲にある無数の砂漠の丘はどれも高さが似たりよったりで、丘の上から遠くを見渡しても人工物を確認することはできなかった。

 それがあっさりと見つかった。


 踏みしめるには心もとなかった砂地は、ここでは固く久々に歩きやすさに足が喜ぶ。

 所々に草木が生えており、緑色の物を見ることへの安心感もあった。

 どこかで水の跳ねる音が断続的に聞こえてきていて、水の存在も窺わせる。

 生物の存在を思わせる白いレンガ造りの建物もあり、人型の生物が往来している。誰もが平然と歩き、先程まで襲いかかってきていた砂嵐に気を向ける者など誰1人いなかった。


 ここが砂漠に点在するオアシスと呼ばれる場所であるということは、すぐに分かった。




「随分と黄色い衣装を着ている君は、一体何者かい?」


 俺たちを助けてくれた者は女の子であった。

 白味がかった金髪はリリベルと同じような髪形で、空のアレの光に常に当て続けられたような色付いた肌の色が見えている。

 衣服は肌を守るために厚めに着込んでいる。正直見ている此方が鬱陶しく思える。


 そして、幼い見た目に似つかわしくない言葉遣いがリリベルに似ているようだった。


「何者って、魔女だよ」

「はあ……」


 小麦色の女の子は深い溜息を吐いた後に、リリベルをどこか軽蔑するような眼差しで見つめ始める。

 魔女を忌避する女の子かと思ったら、次に出た言葉を聞いて異なる理由であることが分かった。


「君も黄衣(おうえ)の魔女を騙る偽者なんだね……」

「え? え、ええ……」


 リリベルが唖然とした表情を見せるのは、そうお目にかかれるものではない。


「私は元黄衣の魔女だけれども……」

「はいはい。憧れも行き過ぎると妄想を生むから注意した方が良いよ」

「妄想扱い……」


 リリベルはフードを被って胸元に飛び入って、そのまま動かなくなってしまった。泣いている訳ではないことは分かっている。

 彼女の要望通り、フードの上から彼女を撫でる。


 身体に付着していた砂を払い切ったリリフラメルが、見かねて補足するが女の子は信じなかった。




「何にせよ助かった。俺はヒューゴと言う」

「私はカルミア。カルミア・オウトマチック。何しに来たの?」

「先程現れた渇く神(エレーミア)を倒しに来た」

「襲われてたのに?」

「戦う準備がまだできていなかったからな……」

「ふーん。まあ頑張ってよ」


 リリベルと俺とリリフラメルを順々に見比べてからすぐに興味を失ったのは、俺たちに神を倒す実力があるように見えなかったからだろう。どうせどこかで野垂れ死ぬと思われている。


「なぜ渇く神(エレーミア)はオアシスに近付くことができないのだ?」

「倒したいという癖に神のことを知らないのだね。あの神様は、勝手に緑の大地を砂に変えたことで、豊穣の神の怒りを買ってオアシスを視界に入れることができなくなっているのだよ」

「そうなのか」


 自然と古い伝承を持ち出して、さも当たり前のことかのように述べるカルミアだった。この地に住む者は、教えられた伝承は本当のことだと信じられているのだろう。

 現地の者が言うのなら間違いない。ここに来るまでに調べてきた半信半疑だった御伽噺は、信じて良い情報だということが分かれば良かった。




「このオアシスに魔女はいるか? とある魔女を探してこの砂漠を彷徨っているのだが」

「いるよ。オアシスを維持するために魔女や魔法使いは最低でも必ず1人はいるからね」

「助けてくれた身で言うのも何だが、良ければ案内してくれないか」

「えー」


 明らかに面倒そうな表情を見せて拒否感を知らせるその姿も、リリベルにそっくりであった。




 一見したところ、このオアシスはさほど広いようには見えない。

 カルミアに無理矢理教えてもらう必要もなかったので、彼女には礼を言って俺たちで探すことにした。


砂衣(さえ)の魔女を探しに行こう。リリベル、歩き辛いから前を向いてくれ」

「ちょっと待って!」


 歩き出そうとしたところをなぜかカルミアに呼び止められた。


「なぜ砂衣の魔女を知っているの?」

「なぜと言われても……知り合いだからな」


 知り合いと言っても良い意味ではない。殺し合いをした仲である。


「歪んだ円卓の魔女の1人だよ? そんなすごい魔女と知り合いだなんて信じられない」


 そのようなことを言われたら、俺の胸元で頭を撫でられ続けている彼女は、『歪んだ円卓の魔女』を何人も殺した元『歪んだ円卓の魔女』だぞ。




「ヒューゴ君。鎧を着てみて」

「わ、分かった」


 リリベルの指示の通りに、慣れた感覚を用いて全身を黒い鎧でかためる。


 一体この動作に何の意味があるのかと思っていたが、突然カルミアが声を上げて俺を指差した。


「黄衣の魔女が心を許した、たった1人の騎士!」


 どうやら、いつの間にか黄衣の魔女は俺を含めて1つの存在として知られているようだ。いつの間にか俺も有名人になってしまったようだ。


「もしかして、本当に君は……いや、貴女は黄衣の魔女だったり?」


 ようやくリリベルが黄衣の魔女であることを信じてくれそうなカルミアに対して、リリベルは両の手を腰に当てて胸を張るいつもの体勢になった。

 そして、俺をチラチラと見て合図を始めた。


 何となくリリベルの言いたいことが察することができてしまった。非常に恥ずかしいが、彼女の要望に応えることにした。応えないと後で彼女に何をされるか分からない。

 下手をすれば彼女の料理を食べられない可能性がある。


「この方をどなたと心得る! かの歪んだ円卓の魔女の1人、黄衣の魔女であらせられるぞ! ()だけどな」

「ははーっ」


 カルミアが平伏をする。


 彼女は黄衣の魔女に対して尊敬の念を抱いているようだ。

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