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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第17章 用法・用量を守って正しく泣いてください
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止めるべき涙2

 どこの国の者か分からないが兵士たちが集まっていた。

 見事に整列した兵士たちは、溢れる亡者たちが横を通り過ぎても一切反応していない。上官への忠誠心と強固な精神がそれを実現させている。


 俺たち4人は塔付近に集まる兵士たちを遠くから見守っていた。




 きっと彼等は大変な訓練を積んできたのだろう。


 だが、それも化け物たちの前では無意味だ。




「私が見た獣がいるよ」


 具現化した望遠鏡を覗き込むリリベルがそう言った。

 彼女に続いて俺も獣とやらを探すと、獣は確かにいた。


 瓦礫だらけの街とは言え、おおよそこの風景には似つかわしくない獣だ。

 口からは大小いくつもの牙が、口に収まらずに飛び出ていて、平均的な人間の大人2人分程の背はある。

 姿はイノシシに近いが、イノシシにしても歪な体つきで、見ている此方が不安に思えてしまう。




 誰かの合図で兵士たちが武器を構え、攻撃を開始した。


 弓兵が一斉に目標に向かって、全く同じ瞬間に矢を射る。

 何百という矢が獣に降り注いで、身体中が針の(むしろ)となった。

 一見して分厚そうな毛皮を持っていそうな獣だったので、弓兵の弓を引く力は相当なものであることが窺える。


 並の動物なら痛みを感じて、生存本能のために逃げ惑うだろう。


 だが、獣は歩みを止めなかった。

 余裕を見せるように4つ足をゆったりと動かして、兵士たちに向かって前進を続ける。

 それでも兵士たちは動じず、次の攻撃合図に合わせて更なる弓射が行われた。俺ならさすがに1歩くらい後退りするだろう。




 矢だらけの獣がまだ歩みを続けるので、今度は近接的な攻撃の準備に変わった。

 隊の最前列が槍を構えて、同じ歩調で獣に向かって突進して行った。獣に向かって列を変えて、槍衾(やりぶすま)となり、前方と左右から槍を同時に突き入れていく。


 さすがに獣もタダでは済まない。

 幾ら巨体で皮膚が厚かろうと、血が流れてしまえば死は避けられない。


 そして、予想通りに獣はぐらついてから横に倒れようとした。


 だが、その様子を見て兵士たちが勝てるとは思わなかった。

 あの獣は、リリベルが倒せず、クレオツァラが怪我を負わされた相手だからだ。悪い意味で彼女たちの情報を信頼し達観していたのだ。




 獣が完全に倒れた瞬間に、槍手や弓兵の一部から身体を揺らつかせる者が現れた。

 糸が切れたように前のめりで倒れる者や、身体のどこかしらを押さえて苦悶の表情を見せる者がいた。


「やっぱり」

「やっぱりとは?」


 リリベルが自分の予想が当たったことを嬉し涙を流しながら俺に教え伝えようとした。まるで親に自慢しようとする子どものようだった。


「あの地獄の王は死んだ時に、自分が受けた攻撃を、与えた者にそっくりそのまま返して生き返っているよ」


 その言葉を聞いて思わず間髪を入れずに「どうやってそんな奴を倒すというのだ」と彼女に訴えてしまった。


 ドミノは先程よりも更に口数が減って、リリベルの話を聞く度に恐れるような態度を表している。

 彼は俺と違って幸運だったのだろう。今までにあのような化け物がいない世界で生きてきたのだ。

 本当なら彼の反応が最も普通だと思う。

 しかし生憎ここは地獄で、彼のような普通の人間こそ、ここでは異常な存在と成り得てしまう。


 兵士たちの数が減ったことで、次はどうするのかと思って見てみたら、別の兵士たちが最初と同じ行動をもう1度やってみせた。


 当然兵士たちは命令に従って統率された攻撃を行うが、犠牲者は増えるばかりであった。




 やがて兵士たちが後退を強いられ始めると、じわじわと部隊が獣から離れようとしていくのが見えた。


 率直な感想として、あの地獄の王も避けて通るべき存在だと思った。


 相手にしてはいけない。

 今はまだ地獄の王があの兵士たちに夢中になっている。その隙に、すぐ近くまで見えるようになったセシルの魔力の残滓を確かめなければならい。




 リリベルから望遠鏡を返してもらって、目的の場所へ移動しようとしたその時だ。


 空から羽ばたく音が聞こえてきた。


 音を確かめるために見上げると、空を泳ぐように悠然と飛ぶドラゴンが見えた。


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