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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第17章 用法・用量を守って正しく泣いてください
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正すべき襟2

 私にとって興味のない生き物は皆殺した。


 きっとヒューゴ君は、私のしたことを嘆き苦しむだろうね。

 彼が私に何もさせないように、その身をなげうって表立ってきた。それは、私が酷い目に遭うのを嫌っての行動だということは、察する必要なんかないぐらい簡単だったね。


 自己犠牲の塊。利己的思考の希薄。盲目的で狂乱的な人間。

 その偏った考え方だからこそ、彼の考えが手に取るように分かるのかもしれないね。

 個人的に言えば、もっと浪漫溢れる考察でヒューゴ君の思考を読み取ることができたら良いかな。好きだから彼のしたいことが分かってしまうとか良いよね。




「いつの間にか惚気話になっているが……」

「これは失礼」


 話が逸れるのは仕方ないさ。好きなのだから。




 クレオツァラが常に抜き身の剣を手に私の近くをうろうろしていた。

 野盗の反撃に遭ったとしても私に被害が及ばないようにそうしているのだ。悪意はないみたいだけれど、目障りだね。


 視界に蝿が飛び回っているみたいだと思いながら歩いていたら、彼にそれ以上先に歩かないように止められた。

 身体を傾けて彼の背中で見えない向こう側を見てみると、随分とこの瓦礫の街に合わない奴がいた。


 先程倒した野盗とは明らかに無関係そうな異形さんだった。


「何だあれは……」


 4つ足で歩く獣が私たちの方に向かってトコトコ歩いて来るのだ。


 可愛くはない。

 大馬ヴィルケと同じぐらい大きくて、鼻先は少し伸びている。毛は逆立っているみたいに尖っていて、触ったら刺さりそう。

 口からはみ出たいくつもの牙は、向かう先が統一されておらず見ていて気持ちの良いものではない。


 異形な部分は明らかだ。本来なら目がありそうな場所に目はなくて、代わりにはみ出た牙によって半開きの口の中に目があるのだ。


 友好的でないことは見て分かる。

 だから、雷を降り注いであげたんだ。




 見慣れた雷が獣を貫いて当てた感覚を得るけれど、それでも獣は歩みを止めなかった。


「魔物か?」

「かもしれないね。私の魔力が吸われてしまったようだ」


 クレオツァラは私の出番だと言わんばかりに、剣を構えながら走って行った。


 明確に獣を敵対視していて、雄叫びをあげながら剣を構えているというのに、獣は歩を早めることもなく4つ足で歩き続けた。


 当然、獣は彼の手によって無数の傷を与えられていった。

 さすが私とヒューゴ君の剣術を成長させる参考になった人間だね。骨太であろう体躯を簡単に切ってみせた。


 時には剣に魔力を留めて、剣筋に合わせて魔力を放出して斬撃の威力を高めて攻撃したりもした。


 獣は私のように悲鳴もあげずに平然としている。

 そのうち足が1本切り落とされて、獣の動きが緩慢になった。ない足で無理矢理歩行を続けようとするので、ドタバタともがいているようにしか見えない。


 一体あの獣は何がしたいのかな。




 最後にクレオツァラが魚を捌くかのように獣の巨大な頭を切り落として、ようやく動きが止まった。


「コレは一体何がしたかったのだ……」

「そんなこと、私に分かる訳――」




 その時だったね。

 話している途中で言葉を止めて、獣の首の断面に異変が起きていたんだ。


 あっと思ったけれど、もうどうしようもなかった。


 獣の首の断面に光が灯り、同時にクレオツァラの首にも同じことが起きたんだ。


 獣の頭は時間を巻き戻すかのように、切られた首に向かって勝手に動き、元あった場所に戻ったのだよ。

 せっかく切り落とした首が再び切られる前の状態に戻ってしまった。骨折り損のクレオツァラに同情してあげる暇もなかった。


 獣についた傷が徐々に塞がっていき、足もくっついてしまった。


 そして元の綺麗な状態に戻ったであろう瞬間に、私は頭上に向かって雷を解き放ったんだ。




 老いが彼の反応を遅らせてしまった。

 彼は身を翻して逃げようとしたけれど、間もなく身体中から血を吹き上げた。良く見ると足が1本取れていた。


 同時に丁度私の真上から、1本の雷が降り注いで来たんだ。

 既に真上に向かって解き放っておいた雷のおかげで、降り注いできた雷に衝突して威力を相殺することができた。


 私が私以外の者から雷を受けるとは思わなくて、ちょっと新鮮だと思った。




 獣は私たちが与えた傷を、そっくりそのままお返ししているみたいだ。


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