避けるべき悲哀2
「話せば良いんだろう、話せば」
と言っても話せることは大して無え。
俺が泣き続ける羽目になった理由を、これまでに数え切れない程の奴等に話してきた。誰も信じちゃくれなかったから、結果俺は頭のおかしい奴扱いされて、避けられてきた。
仲間と呼べる奴なんかオリミーぐらいしかいなかった。
だから、街を歩くと俺を面白え見せ物みてえに眺めてきやがる奴等が、ムカついて仕方がなかった。
地獄の王とか格好つけて頭のおかしい名乗りをしてくる奴に会ってから、全てがおしかくなった。
「そいつの名前は?」
「ジュジジと名乗っていた。ふざけた格好をしていたからはっきり覚えている」
「ふざけた格好?」
「顔面に布を巻いてずっと泣いていやがった。布で押さえれば良いのに、包帯を巻くみてえにな」
ジュジジっていう野郎は……いや、野郎だったかも分からねえ。
何せ、全身も布で巻かれていて身体は覆い隠されていやがった。
ただ町中ですれ違って、気持ち悪い奴がいると思って素通りしようとしたら、奴の方から絡んできやがった。
「アイツはいきなり『悲しいことがあったんだ』とか言って、俺に愚痴をこぼそうとしてきやがった。酔っ払ってんのかって無視していたら、奴はついて来やがる。気持ち悪い奴だったぜ」
ぶん殴ってやろうかと思ったが、あんな町中で騒ぎを起こしたら俺が捕まっちまう。
奴の話を適当に聞き流してから、その場を去ってやろうかと思ったが、奴の話は長え長え。
随分と長く泣いていやがったから、自分の女でも逝っちまったのかと思った。
だが、前に会った知らねえ誰かが転んで怪我をしたことが悲しいとか、酒に酔って自慢話にふける野郎の虚勢が悲しいとか、くだらねえことで泣いていやがった。
そもそもそんなことで顔を覆ってまで泣く奴なんか、気持ち悪いに決まっている。
「マジで言ってんのか分からねえから、呆れて立ち去ろうとしたそっからだ。別に悲しくもねえのに、涙が止まらなくなっちまった」
「もしかして、それだけか?」
「どうやら、てめえも俺の話を信じる気はねえようだな」
「いや、違う。話を信じていない訳ではない。そのジュジジっていう地獄の王の話を聞いただけで、涙が止まらなくなったことを確認しているのだ」
「そう言ってんだろ。あの時は、他に誰もいやしなかった。最初は目の病気とかごみが詰まったとか疑ったけれどよ。医者に行っても何も解決しなかったぜ」
そっから10年以上だ。
泣きたくもねえのに泣き続けて、本当に悲しいことがあったとしても、泣きたくて泣いてんのか泣かされてんのか分かりゃしねえ。
泣きまくる俺は気持ち悪がられて、大工の職をとばされて、他の職にも就けやしなかった。
金を稼いで生きていかなきゃならねえ世の中っていうんだから、後は盗みで食っていくしかなかった。
これで心が荒まねえで生きていられる奴は人間じゃねえ。
流れが変わったのはオリミーに出会ってからだったな。




