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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第2章 弱い騎士殿の初めてのあれこれ
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初めての魔女狩り2

万雷(ばんらい)』と詠唱したけれど、実際は3千ぐらいの雷を落とした程度だ。

 集中力も続かず、1人に雷を当てるのに2度か3度程追加で落とす場合があった。

 まだまだ人にお披露目できる魔法ではないみたい。


 多くの雷をどこに落とすか制御しなくちゃならないので、今はただ落とし続けるだけでも3千が限界だ。

 1度に1万の雷を落とさなくても、詠唱を分けて連続で雷を落とす手もある。格好が付かないのでやらないけれどもね。


 この魔法は滅茶苦茶疲れが出て汗が止まらない。

 他の魔女たちは皆、両手で耳を塞いでなんとか爆音の嵐を凌いだようだ。

 黒鎧に包まれているせいで耳を直接塞ぐことができなかったヒューゴ君は、両手を地につけて痛そうにしている。


「す、すごいかな」


 ヴロミコの泥人形は()()ただの焦げた泥にした。

 残るは4本腕の泥人形とヴロミコだけ。セシルが瞬きをすればそれで終わりだ。




『友達100人できるかな!』




 ヴロミコの叫びと共に、今まで以上に泥沼から泥人形が現れた。

 圧倒的な数だ。

 そして、生き物を殺しすぎだと思った。

 同時に、魔法の詠唱もちょっと変だなと思った。子どもっぽくてどことなく無邪気なイメージを感じさせる。


 セシルが私の雷で呆けている隙に、まんまとヴロミコに詠唱されてしまったので、私はセシルに文句を言う。


「セーシールー」

「ごめんなさい……あまりに雷の音が五月蝿くて……もう1度同じ魔法をお願いできる?」


 セシルは簡単に私にもう1度やれと言うけれど、集中力も切れている今、続けて撃てば次はきっと魔法の精度も悪くなる。敵だけでなく味方にも雷を当ててしまいそうだよ。




 ヴロミコはさすがに魔力の消耗が激しいようで、膝をついて肩で息をしている。


「私の魔法もすごいでしょ?かな!」

「すごいよ! でも、私はまだ魔力を少したりとも消費していない! いずれ君が負けると思う!」

「ううー!」


 ヴロミコは悔しそうだ。犬みたい。いや、泣く前の駄々こねる子どもみたいに唸って遠くから私を睨んでいる。

 根拠は無いけれど、何となく今なら彼女を説得できそうな気がする。

 だから私は彼女に1つ聞いてみた。


「降参しない?」

「もう一度私の友達を倒せたら考えてもいいかな」

「言ったな」


 ヴロミコはやってみろと言わんばかりに手を叩いて私を挑発する。

 だが、質問をしてみて分かったことがある。

 彼女は世界を滅ぼすか世界と繋がっているかの狭間にいる。自身の目的が達成されるなら、必ずしも世界を滅ぼしたいとは思っていないようだ。


 まだ黒衣の魔女に完全に魅入られた訳ではない。


 私は味方がいる場所を確認して、それ以外の場所を徹底的に雷の嵐で攻撃することに決めた。

 魔力をひたすらに消費し続けて、雷を全力で一気同時に落とす。

 少しでも生き残りを発見したら一分の隙も与えずに雷を落とす。

 まるで1度しかそこに雷が落ちていないと錯覚させる程に、同時に雷を落とす。


 それが現状1番格好良く見える『万雷(ばんらい)』だ。


 黄衣の魔女の全力の雷魔法をヴロミコに見せてあげよう。

 魔女として圧倒的な実力差があると思わせれば、考えを変えてくれるかもしれない。それで彼女から降参の言を取らせる。




 私はヒューゴ君や魔女たち、セシルの弟子たちの位置を、頭の中に叩き込む。




 後はひたすら『万雷(ばんらい)』に必要な魔力を即座に放出できるように、魔力をギリギリまで掌に溜め込む。

 彼女をあっと驚かせる雷魔法を使えるようになるまで、ひたすら集中する。


 しかし、私の周りに近寄って来た泥人形が両手を伸ばして襲いかかってくる。これでは私の集中力が途切れてしまう。

 どうしたものかと私に近付く泥人形を落雷で蹴散らしながら、動き回って考える。


 ヴロミコは魔力が切れかけており、膝を泥地に突いたまま再び立ち上がる様子は見られない。

 それでも無邪気な笑みをこぼして、私たちが泥人形たちにどう対処するのか楽しみに観察している。


 もしかして、ヴロミコにとっての魔法はただの遊ぶ道具の1つにしか過ぎないのだろうか。


『世界中の皆と泥遊びがしたいかな! だから世界中の皆の死体が欲しいかな! だから黒衣の魔女に世界を滅ぼしてもらいたいかな!』


 比喩でも何でもなく、本当にただ単純に泥遊びがしたいだけだったりして。

 遊ぶ友達が欲しいだけだったりして。




「あー、ヴロミコいけないんだー!」

「へ?」

「え?」

「うわ……」

「あらあ?」


 この際、味方の白い目線は無視する。馬鹿にしたければ馬鹿にするがいいさ。

 ふふん。


「人が詠唱している時に邪魔するなんてズルなんだー」

「えっ? そうなの、かな……?」


 ヴロミコと同じぐらいの目線に立って彼女に接してみる。

 彼女にとって、今までのことがただの遊びだとするなら、遊びにはルールが必要だ。

 だからありもしないルールを今ここででっち上げて、彼女をルールに服従させてみることにする。


「ズルはいけないんだよー?」

「ご、ごめんなさい、かな……」


 ヴロミコは泥人形たちの動きを止めさせた。


「リ、リリベル……」


 ドン引きしているヒューゴ君の目は見ない。絶対に見ないよ。


 とにもかくにも、これで私の雷魔法の詠唱の準備は整ったはずだ。

 今度こそヴロミコに私の全力の雷魔法を見せられる。

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