避けるべき悲哀
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「オリミー……オリミー!!」
手足は真っ赤に腫れて、呼吸をする度に胸が痛え。
ほんの少し前まで傷の1つも負ってはいなかったってのに、今じゃ虫の息だ。
相棒のオリミーを探してみてはいるが、返事が無え。必死こいて亡者の魂を集めて魔力石に貯めてきたってのに、それを入れた袋も見当たらねえ。
あの騎士のせいだ。黒鎧の騎士と会ってからすべてがおかしくなった。
黒髪の女がどうとか訳の分からねえことを尋ねてきやがる間に、誰かが俺たちを狙って攻撃しやがったんだ。
「大丈夫か!」
「て、てめえ!」
問題を起こした本人が何事もなく瓦礫から俺に近付いて来やがった。
噂通り、俺たちに災厄を振り撒いて来やがる。例え殺されても知らねえ。相棒を探す手伝いをしやがれと鎧に拳を叩きつけてやった。
すると奴は「しゃくしけん」とか訳の分からない言葉を吐いてきやがった。「何がしてえんだ」と怒鳴りつけてやったら、奴は如何にも余裕ありますという風を装って、淡々と喋ってきやがる。
「アンタの仲間を探すのは構わないが、その前にどうしても気になっていることがある」
「アンタ、いつから涙を流しているのだ?」
俺の苦しみについて理解する気も無えってのに、とりあえずで聞きやがるこの男が余計気に食わねえ。
拳がどうなろうと構わねえ。兜を引き剥がして顔面を殴りまくってやる。
「これだけ恨みを持たれたら、私の血が潜り込む余地はない、ああないさ」
「エリスロース、それは諦めてこの男の怪我をまずは治してくれないか?」
「得意分野だ」
自分が攻撃を加えられているっていうのに、まるで気にせず俺の怪我を治療させてやるとか言っているその態度が更に気に食わねえ。俺の存在なんか眼中にも無えって言ってんのか。
「あ、リリフラメル! 待て!」
後少しで奴の兜を剥がせそうだったっていうのに、突然後頭部を誰かに殴られた。
力が入らねえから、顔面から地面に倒れ込んで痛え。
「いつまで経っても落ち着きそうになくて、腹が立ってきた。鉄鍋で殴るぐらいだったら別に良いかと思って……駄目だった?」
「打ちどころが悪かったら死ぬことだってあるのだからな」
「ご、ごめん」
「だが、リリフラメルのおかげで治療しやすくなったことに違いはない、ああないさ」
その辺りで声が聞こえなくなっちまった。
身体が動きそうだって感覚に気付いたら、一気に目蓋が開いて身体を起き上がらせちまった。
痛みが全く無え。
両手の腫れも消えている。驚いたことに傷すら残っていねえ。
「痛むところは他にないか?」
すぐ横に黒鎧の男がいやがった。そして、そのすぐ後ろにエリスロースとか呼ばれていた男がいた。
「失礼な。私が治療したんだ、痛みなど感じていないはず、ああそのはずさ」
奴の言う通りだ。痛みは無え。
それだけは正直に伝えると、黒鎧の男はすぐに話題を切り替えやがる。やっぱりこいつの態度が気に食わねえ。
「アンタが俺たちに敵意を持っていなかったら、アンタの記憶を覗き見ることができる魔法を使えたんだが、それができそうにない」
「だから、オリミーという仲間を探す前に教えて欲しい。気絶していても尚、アンタに涙を流し続ける呪いをかけた奴のことについて」
それを知って何になるっていうのが本音だ。
それにオリミーがどっかに消えちまったのはてめえらの仕業だってのに、対等な取り引きを行っているかのような振る舞いをしていやがるコイツが気に食わなくて仕方が無え。
「さっさと答えやがれコラァ!!」
突然顔の左側が熱くなってきやがったと思って見れば、青髪の女が燃えていた。幻とかじゃねえ。マジで火を吹いてやがった。
何だよこの女。
「リリフラメール!! 落ち着け! 落ち着いて、深呼吸を。そう、そうだ。吸って、吐いて」
「あ、やっぱ無理。腹が立ってきた」
「ここに来てからやけに怒りっぽくなっていないか?」
「だって! 上を見ても、下を見ても、あっちもこっちもそっちも!! どこを見ても赤くて目がチカチカしっ放しで腹が立たない訳がないっての!!」
「連れて来るべきじゃなかったな……」
「ああ!?」
「いや、何でもない」
何だコイツら。
勝手に喧嘩しているコイツらを見ていたら白けちまった。
次回は11月27日更新予定です。




