奪うべき力4
『手を抜く故に無為な死を遂げるのだ』
「油断はしていなかった」
「ん? 誰と会話をしている?」
俺とストリキネの会話の仕組みを知らない黒鎧の男が、困惑していた。この動揺は格好の攻撃の機会だというのに、手元に剣がないのが残念だ。
『まあ良い。そこを除け』
ストリキネは既に真上で翼を羽ばたかせており、口から青い炎を覗かせていた。
真上から炎が吐かれれば、地上に当たった炎は放射状に広がっていく。僅かな瓦礫を壁にしても無意味だ。
ストリキネの炎の威力を熟知しているのは俺だ。
だが、ストリキネと契約した俺は彼の炎に焼かれることはない。
彼の魔力と俺の魔力を混合して互いに繋がっている。彼の魔力によって吐き出される炎は、俺の身体を焦爛させることはない。
「龍!?」
「防御は、できないな」
諦め気味のエリスロースという男の態度を見て、奴等の死を確信した。これまでにストリキネの炎に焼かれて無事でいた者などいない。
『青い青い月曜日!!』
驚いた。
この女はドラゴンなのか?
青髪の女はストリキネと同じ青い炎をその身から吹き上げたのだ。
彼の炎と女の炎が空中で衝突し、両方の熱波が辺りに散らされている。肌が焼ける。
そもそもストリキネの炎と対抗できることがあり得ない。
何なのだあの女は。
「熱っ!! 待て、リリフラメ……熱い!」
何なのだあの女は。
だが、幸運ではある。
あの女の魔法は、連れの男たちにとって動揺を生むに足る行動で、その隙に剣を拾い上げることが叶った。
ストリキネと青髪の女それぞれに余所見をしている黒鎧の男に、剣を刺し貫く。
兜と胴鎧の間の僅かな隙間だが、ろくに盾で防ぐこともしない今であれば狙うのは容易かった。
今度こそ1人を仕留めた。剣が肉を貫くという幾度も経験した覚えのある感覚が、手に伝わって殺した実感を湧かせた。
ダメ押しで剣を横に捻れば、この男の再起不能は確実だ。
剣を引き抜いてすぐさまエリスロースという男に切っ先を向ける。
この3人の中で2番目に怪しい力量の持ち主だ。さっさと殺すに限る。
「クソ……、冗談みたいな痛みだ」
馬鹿な。
確実に殺した感覚はあったはずなのに、なぜこの男は生きている。本来なら喋ることなどできない程の傷を負わせたはずだ。
まさか人殺しの作法を見誤ったか。
いいや、そんなことはあり得ない。曲がりなりにも俺は人殺しの訓練を受けた者だ。
黒鎧の男への攻撃を再度仕掛ける。
剣を握り直して、先程よりも強い力で首と胴の間に貫き通す。
今度こそ殺した。
肉や内臓を差した時の感覚が、先程よりも確かに強く残っていふ。間違いはない。
だというのに、奴は剣で刺された痛みに叫びもあげずに剣を掴み、強く握りさえしてみせた。
この男も常人ではない。




