奪うべき力3
しばしの時間を使い索敵を済ませてひと息つく。
丁度良い瓦礫に腰掛けて、何人殺したのか数えてみるが、途中で強めの頭痛がやってきて覚えてなどいなかったことに気付く。
それでも記憶に残っていたのは、命乞いをした盗掘者のことだ。
見逃してくれと願う癖に、後ろ手に短刀を持ったままの姿は滑稽だった。
常に天地が常に赤く染まり続けている異常な状況に、目は疲れやすくなる。
だが不思議なもので、今は慣れてしまった。目が疲れることに変わりはないが、不快感は最初ほどない。
戦いに明け暮れて赤を見続けた弊害かもしれない。
ひと息が終わって、更に索敵を続ける。
亡者を見つけては駆け寄っては殺し、駆け寄っては殺しを行った。
亡者はレムレットで見るのが初めてだが、危害を加えられているというのに誰も反抗しなかった。手間がかからないことは良いことだ。
今し方殺した亡者の形の消滅を見届けると共に、新たな邪魔を見つけた。
視界に映る動物全てが、俺とストリキネにとっての邪魔な壁だ。今すぐ排除しなければならない。
安寧のために皆殺しにしなければ。
「お! おおお!? どこから飛んで来た!」
斬りかかりが防御されて初めて盗掘者だと気付いたが、所詮は盗掘者だ。掃いて捨てるような存在だ。
1度の防御など偶然に過ぎないと判断して、そのまま押し通して腹を掻っ捌いてやろうとした。
驚いた。
目の前の男は奇襲にも動じずに、剣で防御を続けた。
この国に至って初めて、相手の姿と数を認識する必要のある事態が起こった。
ただの盗掘者ではないようだ。
「エリスロース、平気か!?」
俺の剣筋を受け止めた男の向こうにもう1人の男がいた。護衛対象なのか、見るからに弱そうな男だった。その男が呼んだ目の前の男はエリスロースという名らしい。
だが、その男は見たことのない魔法で鎧を身に纏い、瞬時に俺に寄って来た。魔法使いの類いだと判断して、先に黒い鎧の男を狙うことにした。
鋼鉄の鎧に身を固めれば、例え横や後ろから攻撃されようとも不安で我を失うこともなかろう。
だが、代わりに機動性を失う。幾ら全身を守ろうとも、肘や首等の関節を動かすために鎧の隙間ができる。そこを狙えば良い。
執拗に刺して、身動きを取れなくすれば、後は幾らでも料理できる。
2人の男の更に向こうに、1人の女がいる。
見たこともない青色の髪をした女で、顔が怒りをそのまま表しているかのような雰囲気を持っていた。アレの出方も窺わねばならない。
2、3歩後へ引き、黒鎧の男を誘い出すと簡単に釣れた。
エリスロースという男が青髪の女の近くから離れようとしないということは、あの女こそがこの連れのリーダー格といったところだろうか。
どちらにせよ、まずは1人仕留めさせてもらおう。
「黒髪の女の亡者を見なかったか!?」
そう男は問いかけてきた。
いや、驚くべきはそこではない。
男は盾を構えていた。後ろ手に隠して持っていたとは思えない。盾は男を丸々隠す程の大きさだからだ。
あの身体にどういう仕掛けが施されているのか。まだ、仕掛けがあるのか。適当に切り結んで様子を窺う必要があるだろう。
「聞くだけ無駄だ、ああ無駄だ」
1人目の男の言う通りだ。
質問に答えてやる利も義理もない。
答える素振りを見せて相手を油断させるために、一旦構えを解く。
そして、横に回り斬る。
奴の生身に当たればそれで良いが、当たらなくても良い。
だが、実行には移すことができなかった。剣を突き刺す前に、持っていた剣を手放さなければならなくなってしまったからだ。
『血飛沫』
エリスロースという男が聞いたことのない言葉を吐き捨てた瞬間に、剣に付着していたこれまでに切った者の血が、鋭く尖った針のようになって顔面に向かって突き伸ばされて来たからだ。
魔法使い、いや魔法剣士の類いか。
どいつも魔法に覚えのありそうな奴等ということは、ただの盗掘者ではない。
国に属する正規の兵士か?
「良く反応した。驚いた、ああ驚いた」
「エリスロース、もし彼がセシルについて知っていたらどうする! いきなり攻撃するべきではない!」
「まだ、そんなことを言っているのかい……」
剣を失って分が悪い。他に相手を殺す武器を持っていない今は、一旦引いた方が良い。
勝手に言い争っている内に、瓦礫を陰にして逃げようとしたその時、丁度良く彼が来てくれた。
『全く。一体誰に遅れを取っている、ジークよ』
ストリキネの声と空を飛ぶ影が見えた。




