知るべき痛み4
胡散臭い自称賢者のトゥットが言うには、魔力はそれぞれに特徴があるらしい。
その者特有の魔力があって、良く見える者にとっては色も匂いも形も感じ方が異なるようだ。
魔力を感知する力に長けていればいる程、魔力を敏感に五感で知覚しやすくなる。ヴィリーは鼻が鋭敏に、リリベルは目で感じ取っているのだろう。
トゥットは俺に知覚能力を鍛えろと言っているつもりなのか。
「無理じゃろう。お主にそのような才能はない」
「はっきりと断言してくれるな」
「散々、魔法を扱ってきておるのに、何ら大して成長せんように見える。才能がないと見るのは当然じゃ」
「傷口を広げていないで、代替手段を教えてくれないか」
もう少し優しい言葉で話せる奴はいないのか。
トゥットは突然握った手を突き出して「ほれ」と言った。
最初は何のつもりかと思った。
その手の中に何かあるのではないかと想像がついたら、自然と彼の手の下に両手を差し出してみた。
するとぽとりと丸い球が落ちて待ち構えていた両手の上に乗った。
最初は何か分からなくて、わざと掌を動かして手の上で球を転がしてみた。
そして、ある時に球の中心に丸くて黒い模様が現れてそれが何なのか判明する。
目玉だった。
転がって瞳の部分と目が合って思わず驚き腰が抜けそうになった。それでも目玉が転がっていきそうになっていくのを、無意識に手を閉じて阻止できたのは自分でもすごいと思った。
「その目で見直してみい」
「え、いや、どうやって……」
首を横に振ってやれやれと残念そうな声を上げる様が腹が立つ。とはいっても腹が立っていても仕方がない。
トゥットに正直に教えを請うと、彼は偉そうに述べてくる。実際、偉いのだろうが。
彼は目の視界を奪えと言った。
どこかで聞いたことがあるな。
彼はさも当たり前のように無から紙を生み出して俺に手渡した。いつの間にか1つの魔法陣が描かれていて、そして聞き覚えのある言葉を告げる。
「呪文は『借視権』じゃ」
その呪文を聞いて納得するより前に、質問が先に飛び出た。
なぜ、セシルが使っていた魔法をトゥットが知っているのかと不思議で不思議で聞かずにはいられなかった。
「儂を誰だと思っている。賢者じゃぞ」
それでは説明がつかない。賢者はそんなに都合の良い存在なのかという感想と共に、晴れない疑問に胸がもやもやした。
だが、何度彼に問いかけても返ってくる答えは「賢者だから」であった。
話が先に進まないことをもどかしく思ったラルルカが、突如影を伸ばして俺の腹を叩きつけて、渋々先に進むことにした。
「儂の目と等しい力を持つ目をお主にくれてやろう。その目を通して世界を見れば、お主の探し物も容易に見つかるじゃろうて」
つまり彼は、セシルの魔力をこの目で確認して、地獄で同じ特徴を持った魔力を探し当てろと言うのだ。
「時間はないぞ。早く探し出すが良い」
「どういうことだ?」
「散乱した魔力を求むる者たちの餌食になれば、2度とお主の捜し物が見つかることはないじゃろう」
嫌な予感を感じた。
その予感から推察する。
嫌な予感を感じるということは、ただの悪い出来事ではなく最悪の事態に陥ることを表している。
これまでに何度も感じてきた悪い予感から、今回起こり得そうな歓迎できない出来事の予想を言葉にして彼に尋ねてみる。
「まさかとは思うが、トゥット。アンタがここに来た理由は、魂という魔力を奪い取るためじゃないよな?」
「無論じゃ」
「俺がとある魔女の魂を取り戻したいということを分かっていて、わざと俺に伝えに来たのか?」
「お主がこの情勢でどう関わるか見ものじゃ」
この爺は……。




