表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第17章 用法・用量を守って正しく泣いてください
467/723

愛すべき閑話

 結局、多くの犠牲を払ってまで止めたかった戦争は、新たな火種の誕生によって止まることはなかった。


 死にもの狂いで紫衣(しえ)の魔女を倒したというのに、充足感はまるて得られなかった。

 虚しさのあまり、何日かは無気力な生活を行っていた。当然、リリベルには怒られた。




 戦争が止まらなかった理由は、この世に現れた地獄のせいだった。


 地獄は全て魔力で構成されている。

 死者の魂を管理するための牢獄も、死者の魂も、地獄の王も皆魔力の塊だ。


 大国レムレットの首都は完全に地獄に侵食されて、死者の魂はレムレットのあちこちに散らばってしまっている。今やこの世とあの世の境界線は曖昧となっている。歩いて行ける地獄なんて、響きは面白いかもしれないが実際は最悪だ。




 この世界では魔力をより多く持ち操ることができる国が、力を持つようになる。

 魔力でできることがあまりにも多いからだ。


 何と言ったって、魔女の中でも1、2を争う程の魔力量を持ったリリベルを巡って、国同士が戦争を起こすぐらいなのだ。


 顕現した地獄は国々にとっては見えている宝の山なのだ。

 いや、国どころではない。

 魔力を奪って一儲けしようと考える商人や盗賊や、自身が扱う魔力以上の魔法を放つことができるために半端者の魔女たちが、我先にと魔力を求めて(つど)っている。


 皆一様に取り分が減ることを恐れて、より弱い奴等を騙して殺したり、目を盗んで密かに魔力を奪ったりし始めた。


 それが、新たな戦争の原因となった。




 レムレットという国は、まるで獲物に群がる蟻のような大量の略奪者にじわじわと食い千切られている。


 どれだけ強い軍隊を持っていても、尽きることのない略奪者たちの侵入に徐々に疲弊して瓦解する。


 ラズバム国王が死んでしまったことが特に最悪だった。

 中枢が混乱したこともあって情報を統制させることは叶わず、異常な情報の伝播によって大陸中にレムレットの弱体化が知れ渡った。


 更に、祝祭のために首都に集まった権力者や文化人、戦闘に長けた者がほぼ命を失ったため、国家機能の麻痺をより加速させた。




 国を守る巨体な城壁は、今やレムレットと周辺国を分ける境界線にすらならない。


 どんなに甘く見積もっても、レムレットは領土の半分を失ったとみて良いだろう。




 現在、レムレットはクローディアスが女王となって残った国を守っている。

 首都を失ったため、東側に遷都している。

 元々の首都や周辺都市に住んでいた民は、例外なく新都に移された。微力ながら俺たちも力を貸した。




 問題の地獄に関しても混乱を極めている。

 地獄の王たちが、略奪者たちに良いようにされて黙っている訳はないと思っていたのだが、実際は沈黙したままだった。


 現世に干渉してはならないという彼等の掟が、略奪者たちに手を出せないでいるのかもしれない。

 もしくは、黒衣(こくえ)の魔女によって殺されてしまっているのかもしれない。


 地獄の王の姿がこれまでに確認できていない以上、想像することしかできないのだ。




 俺たちは今、レムレットへ侵入した時に、初めて訪れた町に来ている。


 首都とは違って華やかさはないが、それでも今は人口の密度が凄まじい。家を失った多くの国民が浮浪者となって道を埋めている。

 勿論国は、彼等のために簡素な住居を用意してやっているが、まだまだ数が足りていない。




 クローディアスの手配により、領主が管轄する屋敷の一部を借り受けさせてもらっていて滞在している。


 その1室に俺とリリベルはいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ