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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第16章 舌戦
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第2章 第9節

 さすがに息が切れた。


 人生で初めて嵐のように言葉を(まく)し立てたと思う。おかげで、途中から何が言いたいのか自分でも分からなくなりそうだった。


「……こんなのは議論じゃない」


 カルメの言うとおりだ。

 言うとおりだが……。


「最初っから議論なんかする気はなかっただろうがよ。お前もヴェッカも、俺の言うことなんか何1つ肯定しなかったじゃねえか」


 カルメは、自身がどれだけすごい物語の作り手かを証明するために、俺の批評を全て否定しようとしていた。

 奴が創った物語にも褒められる箇所はあったとも言ったのに、それすらも受け入れなかった。


 性格がねじ曲がり過ぎた者の()()はみじめなものだった。




「ヒューゴ。君は怒ると随分と口調が変わるのかも」

「怒りで興奮して口調が変わらない奴の方がどうかしている」




 体力を使って口数が徐々に減ったところで、やっと落ち着いた。


 カルメは机に肘をつき、頭を抱えている。

 頭の中で思考を巡らせて反論を組み立てているのかもしれない。


 そして奴は口を開いた。


「君が私の作品の観客の1人だったとしても、君以外の全員が作品を称賛してくれなら、君の批評は異端にも近い。今どきの言葉で言うのなら、ズレている」

「そうだな」


 普通ならカルメの言うとおりだろう。

 これは大多数が東を向いて話しているのに、俺だけが西を向いて話しているようなものだ。

 カルメの作品は長い間に渡って演劇の王道作品として演じ続けられてきた。古くから親しまれているということは、万人に受けるような話作りができていたということだろう。


 だが、他の誰でもなく、カルメ本人が大多数に受け入れられていることを許していないのだ。

 俺はそれを指摘したかった。


「だが、お前自身が己の作品に対する批判を、ただの1人も許さなかったんじゃないか。言葉どおりに1人残らず全員がお前の創り出した舞台を称賛してくれることを望んでいたんじゃないか」


「そうでなけりゃあ、たった1人の小さな魔女如きに怒りを覚えることなんてしなかっただろうし、貧弱な騎士との舌戦に付き合おうなんてしなかっただろう」


「完璧を求めたが故に、1人でもお前の作品に対する批判者が出てしまえば、お前の作品はその時点で完璧じゃなくなる」

「いや、物語の途中でその良し悪しを語るべきではないってことは、分かるよね? 最後まで物語を見届けてから批評を口に出すべき。物語が終わっていない今この時点での批評は、時間の無駄にも程がある」


 それはあまりにも苦しい言い訳だった。

 だったらこの会話の最初から、物語を全て見終わってから作品に対する批評を語るべきだと、主張するべきだった。

 それで話は終わっていたはずなのに、奴はひたすら俺の批評の言葉を否定するために待っていたんだ。


 それが今、全てひっくり返されてしまった。

 カルメは自分で自分の意思を捻じ曲げた。つまり、奴は嘘を吐いた。




 奴は自ら舌戦という舞台から降りたのだ。




 そして奴は急に目蓋を落として、椅子から崩れるように床に落ちた。


 指1本動かすことはなく、1つの言も発することなく、息絶えた。


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