第2章 第4節
まんまと挑発に乗ってくれた。
上手くことが運べたせいで、此方が不安になってしまったぐらいだ。
だが、支配者の糸で俺の身体を無理矢理変形させたことが、カルメの本気の怒りを表していることは確かだった。
おかげでこの言い争いの場に簡単に乗り込んでくれた。
ある意味でヴェッカよりも単純で分かりやすい思考だろう。
恐らく舌戦にすらならない。
このまま奴を挑発し続けて、論理的な思考を鈍らせていけば勝手に自滅してくれるはずだ。
机の上の鏡はまだ健在だ。
俺の言葉に反応して、自慢気に芸術知識を披露するリリベルが鏡に映し出されている。
つまり『舌戦』という鏡の効果はまだ続いている。
「この席に座ったということは、屈辱的な汚点だということだよね」
カルメの人形遊びの舞台に、脚本家を自称する奴自身が出しゃばっている状態ともなれば、舞台としては最悪の出来になっていることは明白だ。
勝手に広げた自分の世界を壊されて勝手に怒っているカルメに、ざまあみろと思う。
「この時点でこの舞台は駄作も同然だ。舞台の取りやめでも考えたらどうだ?」
「地獄の王と哀れな騎士の戦いは、この演目には必要なかった」
「辻褄をどうやって合わせるつもりだ? 自慢ではないが、俺はこの世界に地獄を顕現させた男だぞ。お前の人形劇に深く関わっている人物が、いきなり消えることになるのか?」
「代役で差し替える。ヒューゴという騎士が目立つ顔ではないってことは、演者が代わっても気付かれないってことだよね」
「劇の途中で演者が代わるなんて、聞いたことがない。前代未聞だな。やっぱり駄作も良いところ――」
2度目の首折りによって問答無用で会話を中断させられた。
挑発が余程効いているようだ。
奴は俺に対する直接攻撃が無意味であると悟り、今度は手を変えた。
鏡を見るように促して再び故も知らぬ者たちを殺し始めたのだ。
鏡に手を突っ込んで、鏡の中にいた誰かの身体の一部を引き抜く。
そして絶対に致命傷になるものを選んで抜き取り、机の上に並べていった。
オークの大きな心臓や、ゴブリンの脳味噌。
大人が子どもかは関係なく、この世界にいる誰かの命を奪いながら会話を続けた。俺に対する精神的な攻撃を仕掛けているのだろう。
精神年齢の幼い奴は、命を簡単にすり潰していく。
「まず根本的なことを話していこう。私は被害者だからっと」
「言うに事欠いてそれか」
「この素晴らしい人形劇を始めるきっかけは、あのクソガキのせいと言っても過言ではないから」
そう言って鏡に現れたのは、今よりもっと小さなリリベルの姿だった。




