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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第16章 舌戦
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序章 第5節

 周囲は暗闇で、2脚の椅子と1脚の机と頭上の光が1つ。

 椅子には俺と地獄の王ヴェッカが座り、机の上には円形の鏡が埋め込まれている。


 依然として俺は身体を動かすことはできず、具現化を試みるも上手くはいかなかった。


「話を続けようか」


 ヴェッカの言う話というのは、俺が地獄を顕現させてしまったことだ。


 カルメはただ、相手を言い負かすことができたら勝ちだと言っていた。議題については何も指定しなかった。

 恐らくだが、言い負かすことができるのなら議題は何だって良いのだろう。


 ヴェッカと俺を繋ぐ事柄は地獄しか無い訳だし、当然地獄に関連した話題でしか言い争う種になりそうなものは無い。




 だが、まだ確認したいことが他にもある。


 地獄の王が作り出した物なのだから、罪に向き合わなかった者や嘘を吐いた者の魂を消滅させることは、決してハッタリなんかでは無い。

 慎重に言葉を選ぶ必要はあるし、その言葉を考えるためにも情報は欲しかった。




 ヴェッカに対して憎しみや恨みがある訳では無いし、この世に地獄を顕現したことの責任が俺には全く無いとは思っていないから、彼の言葉に抵抗する気は本来は無い。


 無いが、今、死ぬ訳にもいかない。

 まだリリベルは生きている。リリベルが死ぬまで、リリベルに騎士として俺が不要だと言われるまで、死ぬ訳にはいかない。




 魂を消滅させることが、殺すということに繋がるなら、俺はヴェッカを殺す。




「話を続ける前に、ヴェッカにも確認したいことがある。時間がたっぷりあるなら、それぐらいのことは許してくれても構わないだろう?」

「それはあの女が言う時間の話だ。俺は、お前1人のためにふんだんな時間を用意してやるつもりは無い」


 それもそうかと動かない肩を落としかけたが、彼の次の言葉で状況が変わった。


「しかし、地獄の裁定では、質問も反論も拒否することは無い。全ての訴えを退けて、その魂が犯した罪を自覚させることが裁定の目的だからだ」


「地獄の裁定に則って、お前の質問を聞こう」


 地獄の王にしては随分と話が分かる。

 いや、これまでに出会った地獄の王は皆、姿は異形なれど一応の話が通じる者たちだった。地獄の王にしては、という言葉は正しくは無いのだろう。




 とにかく質問に答えてくれるのなら良かった。


「まず、ヴェッカのその姿は本当の姿なのか?」

「違う」


 ヴェッカの返事と共に、鏡の中に何かが映し出されて覗いてみると、天秤が1つ机の上に置かれているのが見えた。


「その鏡に映るものが俺の本来の姿だ」

「この天秤が?」

「そうだ」


 この際、本来の姿が天秤であったことについては突っ込まない。問題は、人を模した鏡の中にいるヴェッカが、本当の姿であるのかどうかというところだ。


「では、その鏡の身体を用意したのはカルメか?」

「違う。俺が用意した依代(よりしろ)に、あの女が魂を定着させた」

「その姿に近しい者を以前に見たことがある。鏡の中に別の世界があることは知っているか。その世界を作ったのはヴェッカなのか?」


 今度は鏡に、素肌の下に鏡を現す灰衣の魔女の様子や、同じ状況のリリベルが映し出された。

 鏡の中に住まう者(スペクリュグス)を生み出した者が、彼の仕業であったのなら恨みはある。


「そうだ。しかし、現世(うつしよ)にいる愚か者が、俺の世界を模造した例もある。お前が見た者は、模造された不完全な鏡の中の世界に偶然生まれてしまった哀れな魂のなれ果てだろう」

「その鏡の世界を模造した愚か者の1人に、カルメ・イシュタインという名はあるか?」




「ある。そして、愚か者はただ1人だけだ」




 ああ、納得した。

 ラルルカを利用してリリベルを未来永劫、鏡の中に閉じ込めようとした犯人がカルメ・イシュタインだと確定した。


 鏡の中でしばらくの時を過ごした彼女は、鏡から脱した後、少しの間性格がおかしくなっていた。

 何でもあちらの世界では、この世のものとは反転した状態になるらしく、天真爛漫なリリベルが内気で弱気な考え方へと変えさせられてしまったとか、彼女自身が言っていた。


 付随して、ラルルカからリリベルが心を砕かれるまで泣かされたことを明かされている。




 当然、俺は鏡の中の世界を作った犯人を恨んだ。

 そして今、恨む先が見つかって良かったと思った。



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