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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第16章 舌戦
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序章 第2節

 具現化しようとした。

 カルメの頭上から重量物を落として、さっさとこんなことを終わらせたかった。


 しかし、カルメの能力を失念していた。


支配者の糸(ジグロプト)に繋がったら、何をしようとしても意味が無いことは覚えているよね?」


 支配者の糸(ジグロプト)でカルメに繋がれた者は、糸伝いに彼女の魔力を流し込まれ、魔法詠唱のための魔力の流れを阻害され、正しい思考力すら奪われる。

 他の誰でもなく俺自身が経験してきたことだ。




「鏡を見て」


 カルメが鏡の上に手を差し出しひと撫ですると、先程まで暗闇しか映さなかった鏡が、本来の機能を取り戻した。




 いや。

 良く見ると、俺やカルメ、地獄の王の姿を反射してはいない。

 どこか全く別の様子を映し出しているように思えた。


「コレはハイレという村に住んでいる老人だね」


 鏡面には1人の老人が、家の中のロッキングチェアでくつろいでいる姿が映っていた。

 この様子がどの視点から映し出されたものなのか、どういうカラクリで鏡に映し出しているのかなど気になるところはあるが、まずこの老人自体に見覚えは無かった。


 ただ、ハイレという村に聞き覚えはあって、少し考えてみたら記憶がすぐに戻ってきた。


 ハイレ村は確か、ロベリア教授の依頼でリリベルと共に向かった場所だ。そこで、俺とリリベルは賢者の石を探し求める手伝いを行った。

 しかし、記憶を探っても心当たりのある人物は浮かばなかった。




「一体これが何だと言う――」

「老い先短い老人っていうことは、ここで死んでも良いってことだよね」


 俺が言い終わる前に、カルメが鏡に手を出した。その手は鏡よりも奥に突っ込まれていった。

 ずぶずふと入り込んでいく手が鏡の中にいる老人に到達したかと思うと、彼女は一気に引き抜いた。


 鏡の中からバタンと大きな音が聞こえて見てみると、鏡に映った老人がロッキングチェアから床に倒れ込んでいた。




 そして、その瞬間に液体が飛び散ってきて、顔中に不快感を襲った。


 何事かと思ったら、その液体の発生源は、先程までカルメが突っ込んでいた手からであった。


 彼女は何らかの臓器を手に持っていた。

 否が応でも、老人とカルメが持つ臓器らしきものとを、点と点とで繋げさせられる。


「では、ルールを説明しよう」

「その前に今のが一体何か答えろ」

「とは言ってもルールは簡単だよ。相手を言い負かせられたら勝ち。ぐうの音も出せなくなったら、それでおしまい」

「おい! 魔女は話を聞かない奴ばかりだな! 質問に答えろ!」


 いい加減に腹が立って我を忘れそうになったところで、地獄の王から待ったがかかる。


「これ以上、罪を重ねて後悔をしたくないのなら、騒ぐのはやめておけ」

「だから、何の話を――」

「分からんのか。お前がこの女の行動を制する度に、誰かを殺すと脅迫しているのだぞ」


 至って冷静な様子のヴェッカに諭されて、ようやく理解した。見せしめとして老人が殺されたのだと理解した。




「鏡を見て」

「2人目だな」

「おいおい、まさかお前……」


 カルメが臓器を机の上に大事そうにそっと置いた。俺の目の前に見せつけるような置き方は、まるで俺のせいで老人が死んだとでも思わせるようだった。


 彼女は再び鏡に手を突っ込んだ。


 鏡には先程の老人は映っておらず、代わりに草原で走り回る少女が映し出された。耳の長さが目立つ少女は、エルフで間違いない。




 嫌な予感を感じてすぐに(わめ)いた。

 鏡から手を抜けと懇願した。


 しかし、カルメは俺の言葉のひと欠片も聞き入れることは無かった。


「コレはローメリカという村に住んでいるエルフだね」

「分かった! 黙って聞く! 邪魔はしない! だから、待――」

「岩が突き出た草原で走り回るっていうことは、不慮の事故で死ぬ可能性があるっていうことだよね」


 鏡から一気に手が抜かれると一緒に、長くて白い物とそれに纏わりついていた赤く細長い管が現れた。


 鏡を見ると、走り回っていた少女は前のめりで倒れて、それ以降ピクリとも動かなくなる。

 少女の近くにいたらしき女性が、慌てて少女を抱き起こし、少女の名らしき言葉を呼ぶが、反応は返ってこなかった。


 やがて、女性の悲痛な叫び声がこの暗闇に響き渡り始めた。


「でも、互いが信じる真実を主張しても、いつまで経っても議論が終わることは無いよね」




 カルメは少女について何も言及せず、話をもとに戻した。

 そして、話を続けながら、手に持っていた長い物をゆっくりと慎重に、先に置かれていた臓器の隣に並べたのだ。


 原理は分からないが、この魔女は鏡越しに遠くにいる2人を殺したのだと、はっきりと理解した。




 俺は吐き気を感じると共に悲しみと怒りが同時に湧き上がっていた。


 俺が最も嫌う命の奪い方をわざとらしく行ってみせたカルメに、これまでの人生でかつて無い程の邪悪さを感じた。

 正に最悪だ。


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