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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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慕われる者

 本当は紫衣(しえ)の魔女を殺す必要は無かった。

 白衣(はくえ)の魔女を呼んで彼女を治療すれば正気に戻ったはずだろう。


 デフテロの策に乗って地獄の世界をこの世界に顕現させ、黒衣(こくえ)の魔女が甦る機会を与えてしまったのだから、黒衣の魔女を倒すためにも味方は多い方が良いはずだった。


 だが、俺の中にいる戦いに喜びを得る感情が、正気の思考を妨げてしまった。




 紫衣の魔女が操る全ての魔法が、彼女の生命の終わりと共に霧散する。

 光る魔法陣が消えると周囲は一気に暗くなるが、代わりに世界が赤らんでいることに気付いた。


 ただでさえ天も地も赤いのに、朝日が更に赤を濃くさせた。




「さあ、ラルルカ。もう私たちの用事は済んだよ。そろそろ出てきなよ」

「……つまんない。いつ死ぬのかと期待していたのに、とんだ時間の無駄だったわ」


 朝日と地獄の赤が混じった土煙の中から、何の前触れも無くラルルカが現れた。

 俺とリリベルが死ぬことを期待していた彼女は、最悪の結末を目の当たりにして、最高に嫌そうな顔をしていた。




「私たちのために、わざと呼ばなかった白衣の魔女たちを、今こそ呼んでも良いのでは無いかい?」


 ラルルカは舌打ちの上に顔を背け悪態をつくが、しばらくして観念すると何処からともなく白衣の魔女やカネリたちが現れ、皆が集結した。エリスロースもいる。


 やはりラルルカは最初から俺たちを監視していて、この地で起きている状況をずっと理解していたようだ。


 土煙を鬱陶しく思ったのかオルラヤが即座に氷を張り巡らせると、一気に煙が重みを与えられたかのように下に落ち、一気に視界が晴れた。


「ここがレムレットの首都……? 随分と穏やかではない様子だけれども」


 カネリやクレオツァラが異様な光景を目の当たりにして、すぐに剣を抜き警戒を高める。




 戦いの病に冒された紫衣の魔女と戦ったとこにより、俺にも病がうつっていたのでオルラヤに治してもらった。幸いにも自我を失う程、病が進行していなかったおかげで、すぐに治った。

 ただ、病に冒された本人の感覚的には、何かが変わったようには感じられない。この病は、思考が(いびつ)になっていくだけで、その思考はあくまで自らは正しいと認識できる程度のものだ。

 だから、争いを起こそうとする衝動を俺は、おかしいものだとは認識できていなかった。


 オルラヤが治ったと言うのだから、きっと治ったのだろうという感覚しかないのだ。




 ここに来た仲間たち全員に、今のレムレットの状況を伝えた。その間もぼとぼとと瓦解した塔から亡者の雨が降り注いで来るので、雨から逃れるための簡易的な屋根を具現化した。


 戦争を引き起こす魔女を殺しはしたが、別の要因でレムレットに混乱を招いてしまった。

 だからまずは、この国の者たちを地獄から退避させ、地獄を元の世界に戻すことが自然と次の目標になる。


 当然、予断を許さない状況だからすぐに行動に移す必要がある。

 しかし、城へ向かおうとする俺をカネリが止めた。腕で進路を阻まれて、どういうことかと彼に目を合わせると、怪しい笑みが返ってきた。


「さすがに戦い続きで疲れただろ? ここからは俺たちに任せて少しは休んだらどうかと思ってさ」

「休むのはこの混乱を止めてからでも良いだろう」

「いや、カネリ殿の言うとおりだ。ヒューゴ、顔がやつれているようにも見受けられるぞ」

「たった1日でそんな訳……」


 反論してみるが、カネリの意見に他の皆が賛同してきた。


『僕たちはまだ、ヒューゴさんの力になるようなことは何もしていません。だから、今は休んでここは僕たちに任せてみてください』


 オルラヤとぴったり密着しているクロウモリが速筆で紙にそう書いた。


 このような場面でも平気で俺に鞭打つリリフラメルとラルルカすら、特に何も言うことは無かった。




 そうして彼等は、まずはレムレットの民を避難させるために、皆で決め合った方角に向かってあっという間に散開してしまった。




 後に残ったのは、俺とリリベルだけだった。

 行く先を失った手足を俺を無視して、彼女はすぐ目の前までやって来て、背を向けて胸元に寄りかかった。


「たまにはこういうことがあっても、良いと思うよ?」


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