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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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戦争を望む者11

「『氷点(ゼロ)』の、効力が及ぶ範囲を、すでに詠唱された、魔法に対しても、広げておく、べきだった」


 紫衣(しえ)の魔女を斬った後、リリベルの重さにつられて、2人であらぬ方向に転げ回ってしまった。


 限界を超えた肉体の酷使によって、命令を上手く聞き入れてくれない足に更に鞭を入れて、無理矢理立ち上がる。

 勿論、リリベルは抱え込み済みだ。


 リリベルの手から直接放たれた雷は、確かに紫衣の魔女を斬っていたが、それでも反撃が必ず来ると踏んでいた俺は、即座に走って避けようとした。




 すると、紫衣の魔女から制止が入った。


「もう良い。戦争は、終わりだ」


 俺は、相手を油断させて攻撃を確実に与えるための口実だと思って信じなかったが、リリベルがそれを否定する。


「リラお婆さんの魔力を感じ取ることができない。死にかけだね」


 彼女の言葉でやっと動きを止める気になった。

 いつでも回避できるように跳躍1歩手前の姿勢のまま、ゆっくりと影に向かって歩く。




 影の輪郭がしっかりと捉えられるまで近付くと、紫衣の魔女の身体が四肢が無いことが分かった。

 紫色のマントに包まれて、まるで赤子のように見えた。

 身体は斜めに焦げついた傷がある。酷く炭化していて、治療を行わない限り、2度と生物としての機能を果たすことはできないだろう。

 リリベルの雷が身体中を駆け巡ったのだから、恐らく内臓含めて身体全体が焼け焦げているだろう。


「詠唱の隙も、与えない程の、連携攻撃は、素晴らしかった。まるで、踊りを見ている、ようだった」

「それは嬉しい言葉かもしれないね」

「お前たち2人程の、心を通じ合わせた敵は、長い生涯で、(まみ)えたことは、無かった。だから、私は、これまでの戦争に、勝ち続けることが、できたのかもしれん」




 紫衣の魔女は、俺とリリベルの連携に感動しながらも、いきなり「安心しろ」と言い出す。会話の繋がりが分からなくなった俺が混乱していると、彼女は『反転(マイナス)』と詠唱した。


 すると失われていたリリベルの足が、枝葉を伸ばす植物のように、にょきにょきと生えて元の五体に戻った。


「銀衣の魔女の、魔法を利用し、私が、生け贄に魂を移し、甦る手段を断ったことも、素晴らしい、戦術であった」


 偶然だ。

 彼女が長い時を生きていることは知っていたし、どのような手法で生き永らえてきたかもリリベルから聞いたことはあったが、そのようなことを考えて戦ってはいなかった。

 ただただ、世界中の戦争を終わらせて、リリベルとの平和な世界を生きたくて、無我夢中だ利用できるものを利用しただけだ。


「しかし、その後の戦い方は最低であったね」


 いきなりダメ出しを言うようになってしまったが、心当たりはある。


 リリベルを守るために、俺が捨て身で自死を繰り返しながら戦いに参加したことを、彼女は最低な戦い方だと言っているのだろう。

 それは俺自身も自覚している。


 この身体が不死でなければ、今日だけでも数え切ることができない程、人生に幕を降ろしていただろう。




「リリベルを守るために俺は、何だってやるつもりでした。紫衣の魔女には悪いが、俺はリリベルを背負ってからずっと、戦争では無くリリベルのことを根底に考えていました」


 素直に出た回答に紫衣の魔女は、口元をもごつかせた。

 余程彼女にとって、聞いて心地の良い言葉では無かったようだ。


 代わりに反応したのはリリベルで、まさかのことに、彼女は紫衣の魔女の味方をした。


「リラお婆さんの言いたいことは分かるよ。彼の戦い方は格好良くない」

「どちらの味方なんだ……」

「格好良くないけれど、好きなんだよ。彼の一挙手一投足には、いつも私は心を揺るがされる。でも、それも嫌いじゃないんだよ」


 彼女の真っ直ぐな感情表現に気恥ずかしくなって黙っていると、紫衣の魔女が一層口元をもごつかせた。


「心を通じあわせて、私を殺した、お前たちは、正に夫婦に、相応しい」

「ふふん。今日はとても気分が良いね」


 紫衣の魔女の歪んだ褒め言葉に、リリベルはつま先を立てては戻してを繰り返して、小さく跳ねて喜びを表した。

 無邪気である。


「さあ。私とお前たちとの、戦争に、幕を下ろせ」




 紫衣の魔女の最後の言葉を受け取り、具現化できるようになった黒剣を強く握り締める。


「この先の戦争を、見られぬことは、遺憾だが、最期に、最高の戦争に、身を置くことが、できたことのだから、良しとしよう」

「さようなら、紫衣の魔女」


 それから彼女の首に目掛けて、剣を振り落とした。


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