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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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戦争を望む者8

紫衣(しえ)の魔女が不死では無いなら、地上から遥か高くまで伸びた塔を破壊し切ってしまえば、後は途方も無い高さからの落下を行うだけになる。

これで死んでくれることを望む。


「ヒューゴ君。追撃だ」

「え」

「高い所から落ちて死ぬ程、あの魔女は(やわ)では無いよ」


俺もリリベルも体裁的には死ぬというのに、あの老魔女は死なないと言うのか。




飛び乗りたかった塔には一応の着地には成功した。

それでも雷による視界不良はまだ残っていた。状態が戻る暇も惜しくて、自ら首を切り落として元に戻すと、今度は強めにリリベルから叱られてしまった。


表面上は、心からの謝罪を作ってみせるが、紫衣の魔女の後を追うなら早い方が良いと思っている。後悔はしていない。

リリベルはそんな俺の心をあっさりと見通したらしく、軽く頭をはたかれてしまった。




塔の天辺(てっぺん)から下の様子を窺ってみるが、地上は瓦解した塔が巻き起こす土煙で下の様子が分からない。直接降りて確認してみるしか無いようだ。


「塔を降りるぞ」

「任せるよ」




背中にいるリリベルを今1度抱え直す。

そして、塔の外壁に足場を具現化しながら、意を決して飛び降りる。


なるべく早く降りられるように、階段のような足場は作らず、ぎりぎり着地に足腰が耐えられそうな高さ毎に足場を作って飛び乗っていく。


破壊された外壁のあちらこちらからは、袋が破れてとめどなくこぼれ落ちてしまう穀物のように、亡者たちが溢れて落下していく様子が見えた。

こぼれ落ちていく亡者たちに巻き込まれないように、具現化する足場には注意していく。


亡者を見たことでふと1つ思い出して、リリベルに打ち明けた。


「セシルが死んだ」


セシルの死を噛みしめることが辛くて、努めてあっさりと言ってみた。


「最期まで魔女として生きたんだ。彼女も満足だったでしょう」


リリベルもあっさりと言った。残念がったり、涙声になったりしなかった。

セシルは俺にとって数少ない友であったが、彼女にとっても数少ない友であった。それなのに、2人揃って味気無い感想でセシルの話を済ませることになりそうで、自分で言っていて落ち込みそうになった。




だから、セシルが最期に遺した俺の言葉をリリベルに伝えることにした。

彼女は俺に目を抉ってもらうよう言ったと彼女に明かすと、彼女はいつものように鼻で笑った。


「へえ。あの魔女が君にそこまで言うなんて。妬いてしまいそうだよ」

「どういう意味だ」

「セシルの魔女性で最も重要で、最も執着する物は目だよ? 例え死んだって他者にはおいそれと渡したくないだろうに、その目を君にくれると言ったということは、彼女は目よりも君に執着したということに他ならないね」


リリベルに言われて初めて気付かされた。

確かに彼女の言う通りだ。


セシルは、見たくても見えなかった景色を見ようとした魔女だ。失った視覚を取り戻そうとしたことが彼女にとっての全ての始まりだった。

彼女にとって、目は何よりも大切なものだ。


魔女は誰も彼も、執着する事柄に関しては他に譲ることはしない性分であるというのに、その魔女が最も執着している物を俺に譲ったのだ。




死者の目を抉るなんて野蛮過ぎる行為だと思えたが、リリベルに解説されて始めて、セシルの願いを叶えるべきだと考えられるようになった。




「デフテロの魔法陣が発動して、地獄がこの世界に顕現したということは、探せばセシルの魂も見つけられるのでは無いだろうか」

「彼女を蘇らせたいと?」

「できるのならそうしたい」


彼女はふむと唸ってからすぐに答えを返してくれた。


「良いよ。君がそうしたいのなら、今が絶好の機会かもしれないだろうしね。けれど……」




リリベルが手を差し出して、魔力を込め始めた。掌に留めたままの雷光が、激しい音を鳴らし始める。

戦いの合図だ。




「彼女との決着をつけよう」


彼女の言葉で地上の方に目を向けると、土煙の中から光が現れた。

土煙で形が歪んで見えてしまっているが、輪のような模様の中に、蛇のようにうねっている複数の模様が見えた。

十中八九、魔法陣だ。


そして、十中八九、紫衣の魔女の攻撃準備だ。


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