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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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戦争を望む者7

 リリベルのおかげでやけくそになれた。


 俺たちの足元にも地獄の塔が飛び出て、床が迫り上がっていく。塔から零れ落ちて地上に落ちないように、姿勢を低くして頂上にへばりつく。

 そして急激な高さの変化によって耳が詰まったところで、紫衣の魔女と目が合う。丁度、高さの位置は同じだ。


瞬雷(しゅんらい)

八卦(エイト)


 8つの光が規則正しく離れては集まって、回転してはまた離れて、1つとして同じ色の無い光は美しかった。


 見惚れている場合では無い。


 光に触れた塔は、あらゆる物体に変換される。

 一瞬のことだから全てを見て理解することは叶わなかったが、滅茶苦茶な変わりようだ。

 山が出てきたり、水が吹き出たり。雷だって出てくる。形あるもの全てが魔法の材料になっている。

 正直、素人目には『四元素(フォー)』という魔法との違いが分からないが、きっとこれを指摘すると魔女たちの顰蹙(ひんしゅく)を買う羽目になるのだろう。




 8つの光に対して俺ができたことは、具現化して紫衣の魔女の詠唱の邪魔をすることだった。

 少しでも、紫衣の魔女の気を具現化したものに引いてもらって、集中力が削がれている間にリリベルと俺で仕留める作戦だ。


 上手くいくかを考えてはならない。

 この国にどれだけの犠牲を生もうとも考えてはならない。


 リリベルが死ぬ前に、紫衣の魔女を殺すということだけを考えて、このちっぽけな頭で生み出せる想像物を全力で紫衣の魔女に披露する。


 塔を足場に巨大な盾を何重にも重ねて具現化する。

 紫衣の魔女を防御できるという想像のもとに作り出した盾たちは、それでも8つの光によって、無理矢理別のものに変換されてしまう。


 どうやら、まだ想像力が足りなかったようだ。


「良いね!」


 それでもリリベルは俺を褒めてくれる。

 恐らくだが、リリベルの魔力を元に具現化した盾たちだから、魔力感知によって光の軌道が読み取りやすくなって、リリベルの迎撃を容易したのかもしれない。


瞬雷(しゅんらい)!』


 視界の両端から彼女の両手が差し出されて、8つの光が飛び放たれる。

 視界不良に陥り、紫衣の魔女の8つの光の位置が分からなくなるが、恐怖感や焦燥感は無い。リリベルの迎撃が成功することを信じているからだ。




 迎撃するリリベルに代わって、今度は俺が攻撃の起点を作る。


 何の用途も無いそれっぽい魔法陣を、先程まで見えていた紫衣の魔女が立っていた床に具現化する。紫衣の魔女は魔力感知によって当然反応する。

 しかし、残念なことにそれは、魔力で描いただけの魔法陣の形をした落書きだ。魔法なんか生み出せない。


 それでも彼女は、目で見て確認して、魔法が発動されるかもしれない可能性を考慮しない訳にはいかない。

 一瞬かもしれないが、その一瞬の無駄な行動が彼女にとっての隙になる。




 視界が開けたら今度は、俺が紫衣の魔女の隙を作っていると信じてくれたリリベルが雷を放つ。彼女に続いて俺も槍を具現化して投げ放つ。


 真横殴りの雷と槍の雨に対して、紫衣の魔女はたった1歩の回避で、あり得ない横移動を披露する。

 リリベルが放つ雷は、自然に起きる雷と違って破壊する範囲はそこらにある家1件をゆうに超える。彼女はそれを連発しているというのに、紫衣の魔女は身1つで避け切ったのだから、最早化け物と思わざるを得ない。


 雷と槍によって塔が破壊されると、高さを失っていきながら、中にいた亡者が蛆虫のように飛び出てきた。彼等は皆、溢れて地上に落下していき、雨のようになっていった。




()――』

「させるか!!」


 紫衣の魔女に向かって投げていた槍を魔力に戻して、今度はそれを踏み鳴らす者(ストンプマン)に作り直す。

 踏み鳴らす者と言っても本物と同じ程の巨体を作る暇は無いから、腕の一部だけだし、横から見ると随分と薄く見える。


 だが、それでも良いのだ。

 巨大な開いた掌が落ちてくる光景を下から見れば、張りぼての踏み鳴らす者だなんて思いもしない。紫衣の魔女は、すぐ頭上に広がる踏み鳴らす者の巨大な掌に、残りの1文字を詠唱する暇が無いと考えて、対応せざるを得なくなるのだ。




 彼女は、まだ無事な塔に飛び乗ろうと跳躍した。俺たちが立っている塔に向かってだ。


 リリベルの右手に雷の剣が現れて、彼女の左手が身体に強くしがみつくのを感じて、彼女の足となった俺が呼応する。

 思い切り床を蹴って、紫衣の魔女目掛けて跳躍する。


 一旦跳躍した紫衣の魔女が、空中で更なる回避を行う手段は無かったようで、向かってくる俺とリリベルを迎撃しようと、此方に手を差し出してくる。




反転(マイナス)




 リリベルが振り抜いた雷の剣は、紫衣の魔女に当たる直前で真逆の方向へ弾かれ、明後日の方向に雷が放出されてしまった。

 俺たちの攻撃が失敗したからといって、紫衣の魔女は笑ったりはしない。戦争を嗜む彼女にとって、油断による隙は、何よりも嫌うものなのかもしれない。純粋に全力で闘争に励む彼女は、全力で俺たちを叩き潰そうとしていた。


 しかし、リリベルの攻撃はまだ終わっていなかった。

 雷の剣を失った彼女の右手が俺の肩を2度叩く。何らかの合図であることは確かだ。




瞬雷(しゅんらい)




 リリベルの雷は、紫衣の魔女にでは無く、俺たちに降り注いだのだ。

 雷に身体を焼かれるが、死ぬ程の火傷では無い。少し熱い程度で済んでいる。

 それは、自らが持つ魔力そのものが耐性となり、自らに放った魔法で死に辛くなるのと同じ道理である。彼女の魔力で放たれた魔法は、彼女の魔力を借りている俺と彼女自身には、魔法の威力を減衰させる働きを持つ。


 雷の衝撃だけを受けた俺は弾き飛ばされて、更に跳躍を続けてしまう。


 丁度、紫衣の魔女が先程まで立っていた塔に到達するぐらいの跳躍になった。




 そこで俺は彼女の意図に気付いて、身体を無理矢理(ひね)って、すれ違っていった紫衣の魔女の方向へ向き直す。

 リリベルがいつも移動方法として利用する『瞬雷(しゅんらい)』を何度もこの身に経験していたおかげで、雷を受けた後の身体の動かし方には慣れていた。




 俺たちが先程まで立っていた塔で、紫衣の魔女が飛び移ろうとしている塔。その塔に狙いを定めて、俺は具現化した。


 リリベルの深呼吸が首元に吹きかかった後、彼女はぽつりと呟いた。


万雷(ばんらい)


 落雷音はたった1度しか聞こえなかったが、稲光は無数に光り輝いているのが見えた。

 紫衣の魔女では無く、紫衣の魔女が飛び移ろうとした塔に、文字通り万の雷が降り注ぐ。光に包まれた塔が一瞬で瓦解する景色を最後に、視界が赤白に包まれる。


 リリベルを絶対に離さないように、片手は彼女の腕をしっかりと掴み、着地する体勢を取る。

 そして、リリベルに続くように塔を破壊するべく、想像できる限りで最も重い重量物を想像できる限りの数で具現化して、具現化して、具現化し続けた。


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