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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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戦争を望む者4

 紫衣(しえ)の魔女に初めて傷を付けた。

 だからこの機を逃す訳にはいかない。今が紫衣の魔女を倒す絶好の機会だ。食らいつき続けなければならない。


 そう思っての行動が、周囲の状況を読み取ることを1歩遅らせてしまった。


 紫衣の魔女を追うために床を蹴って飛び出した時には、俺も彼女と同じように空を駆けてしまっていた。


 空中に飛び上がったことに問題は無い。

 馬鹿みたいに大きな城から飛び降りれば死ぬのは明らかで、今の俺にとって死ぬことは大したことでは無いからだ。


 問題は、紫衣の魔女を追い詰めるために力を貸してくれたリリベルの雷が届きにくくなることだ。

 幾ら馬鹿みたいに広い城でも、屋内である限りは四方八方を雷で取り囲んむことができる。どこに移動しても魔法の影響下に入らせることができるという利点があった。


 しかし、屋外に出てしまえば紫衣の魔女の移動の選択に制限は無くなる。逃げようと思えばどこにだって逃げられる。




 そして、何よりの問題は、紫衣の魔女が戦争に身を置くことを好む魔女であるということだ。

 戦争は通常1人で行うものではなく、集合体同士で行われるものだ。中には正々堂々の1対1にこだわる()()な心がけを持った者もいるが、今はそれは考えない。


 そういった多数との戦いで勝つには、1度でより多くの者を攻撃できる手段が必要だ。


 自らを戦争を好む魔女と自慢するような彼女が、広範囲の攻撃を使わない訳が無い。先程の王の広間で行っていた1人1人を丁寧に殺す戦法を、果たしてこの屋外でも続けるのだろうかと思った。

 計画の成功のために必要な登場人物がこの周囲にはいないと分かった彼女が、本領を発揮するのは、正に今この時なのだ。


四元素(フォー)


 ほら来やがった。


 彼女の詠唱と共に、彼女の手から炎と液体と何らかの形を持った物体が出現して、風に舞い上がるような動作をしながら、此方へ突っ込んで来る。

 それらは途中で粘土で混ぜこねたかのように、1つの形へと変化して、そして飛来を続けた。




 空中に飛び上がった俺がそれを避けるには、頭上から重量物を具現化してそれに押されながら地上へと落ちるぐらいしか無い。今の想像力ではそれ以外の作戦が思い付かなかった。


 だが、そもそも想像をする暇すらも無かった。


 1つに混ざり合った何かは、この目で視認できる範疇(はんちゅう)を超えていて、とっくに俺に攻撃を与えていたのだ。


 恐らく俺は死んだ。

 ほんの一瞬だけだが、身体の感覚を強制的に遮断されたような感覚に陥ったから、彼女の攻撃が当たったのだと判断ができた。ただ、その攻撃に対して、俺ができることは何も無かったから、死んだのだと思えた。


 どういう原理で紫衣の魔女が放った魔法が俺を貫通したのか、どういった効果で俺を殺したのかを何1つ理解することはできないままだった。




 次に知覚できたのは、紫衣の魔女の詠唱時の声だった。




氷点(ゼロ)

剣雷(けんらい)


 リリベルの声も聞こえて、この身全ての機能が一気に活性化する。


 寝そべっていた身体をバネで跳ね上げられた駒のように起こした。

 リリベルが目の前で俺を守るために紫衣の魔女に立ちはだかっていたことを視認する。正確には膝立ちの状態で、剣の形に押し留めた雷を持ち、その剣先を紫衣の魔女に向けている状況であった。

 今、立っている場所が馬鹿みたいな広さのある広場であることを確認する。空も地上も街並みも赤く染まっていて、デフテロが仕掛けた魔法陣と思われる模様の一部が見えた。


 必要最低限の情報を確認してから、リリベルを守るためにすぐに鎧や盾を具現化しようとした。




 しかし、上手くいかなかった。




 先程の死の後に何が起こったのかを理解していないからだろうか。

 とにかく、俺より前に立っているリリベルを守ろうと、彼女の肩に手をかけようとする。




 そこで右腕が無いことに気付いた。乱暴に引き千切られたかのように肩から腕が無くなっていて、傷口を見ると骨や肉が生々しく露出していた。

 ただ、出血は無く、不思議と痛みも感じなかった。


「ヒューゴ君! 起きているなら私を背負って!」


 リリベルの大声を聞いてすぐに、身体の状況確認から意識をすっ飛ばして、彼女の前に立ち座り、彼女が背に寄りやすいようにしてやる。


 彼女が勢い良く背中に当たってきて、片腕が首に回される。確かに彼女を背中にいることを確認して立ち上がると、想像していた彼女の重みに反する軽さで、勢い余って跳ねるように立ち上がってしまった。

 残った左腕で彼女の左足を掴んで背負いやすい体勢を取ろうとしたが、どれだけ手を掻いても彼女が着ているドレスのスカート生地を揺らすだけで、彼女の足に触れることはできなかった。




「今、私の左足は無いよ」


 耳元でリリベルがそう告げた。他人事のように淡々と。


「紫衣の魔女にやられたのか」

「ついでに言うと、右足は膝から下が無いよ」


 スカートを掴んで見るが特に血のようなものは見られなかった。

 だから、彼女がすぐに死なないのでは無いかと思った。


 まずい。

 不死の特性から外れてしまう。


 俺とリリベルの不死の特性は、死んだら死ぬすぐ前の瞬間に戻る特性を持つ。身体を欠損したままでしばらく時を過ごせば、仮に死んだとしても欠損したまま生き返る羽目になる。元の正常な身体に戻るためには、何度も死ぬ必要になる。




 早くリリベルを殺して、俺も死なないと。




 いや、俺は一体何を考えていたのだ。




「なぜ、君が寝ている間に、こうなったのか解説しよう」

「解説している暇はあるのか」

「戦いながら話すよ、あ、避けて!」


 彼女の左腕に服を右側に思い切り引っ張られて、俺は咄嗟に引っ張られた方向に跳ねた。

 彼女が右手に持っている雷の剣の光のせいで、眼前の景色は余り良いとは言えず、何が起きているのか理解し辛い。




 だが、避けてから気付いたことは、跳ねたことで攻撃を避けることができたということだった。




 凄まじい風圧と共に、身体が吹き飛ばされると共に、避けた地点の石畳が一瞬で(ちり)へと変化したのだ。

 そして、そのついでと言わんばかりに遠く離れた先の街が煙を上げて消し飛んだ。


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