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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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戦争を望む者2

 国王を守る兵士たちは、外で魔女と戦っていた兵士たちよりもきっと強いのだろう。

 王を守る盾となる存在だ。幾つもの武勲を立てて、この部屋を守る権限を与えられているに違いない。




 だが、国を守る者としての見栄えを気にしているのか、誰も彼もがわざわざ名乗りを上げてから攻撃を仕掛けようとするのだ。


 踏み鳴らす者(ストンプマン)を止めるために、国々を股にかけた時も、どこぞやの将軍か隊長だかが名乗りを上げていたことを思い出した。


 国の威信をかける者たちの、最低限の礼儀作法というものなのだろう。

 だがそれは、戦いの両者が互いに礼儀を重んじるという前提があって成り立つものだ。


 国に仕える者の常識が通じない魔女には、何の意味も無い。




 紫衣(しえ)の魔女は選択をしていた。




 彼女はこの国を抹殺したい訳では無い。ただ、戦争の場を欲しているのだ。

 だから、戦争の火種を国々に丁寧に撒いていった。


 レムレットには、セントファリア国のオルクハイム王子がラズバム国王を殺害するという火種がある。


 その火種を作り上げるために、紫衣の魔女は皆殺しにはしない。




 火種を目撃する者が必要だ。最低限の目撃者が必要だ。


 彼女は殺して良い者と殺してはいけない者の選択をしていた。


 何らかの塊が突然、紫衣の魔女から飛び出て、名乗りを上げている最中の兵士たちを1人1人と爆撃されていくのが見えた。


 それと同時に俺に対しても攻撃を行う。

 彼女の周辺から尖った氷が生み出されると、投げる動作も無しに勢い良く吹き飛んで来て、魔力をある程度防げるはずの鎧を貫いた。


 身体が穴だらけになるが、月を意識する必要が無くなった今の俺には、大した傷では無い。




 兵士たちに爆撃が飛来していかないように、塊が射出される前に防壁を具現化して具現化しまくる。ほとんどは無意味だったが、たまに防壁のおかげで塊の軌道が逸れて、彼女の狙い通りでは無い場所で爆発していたので、全くの無駄という訳では無かった。


 同時に紫衣の魔女に対して槍を投げた。

 手に練り込んだ魔力を槍の形に想像して、それが実現すれば握ってから狙いを定めて即座に投げる。投げた瞬間から手に次の魔力を練り込み、新たな槍を具現化してそれを投げる動作へ移行させる。


 腕や足が貫かれて槍を投げる動作ができなくなれば、紫衣の魔女の頭上に重りを想像して叩き潰そうとする。

 具現化のための十分な想像力が働かせられなくなったり、傷を負ったままの状態である程度活動したりすれば、自らの頭上に重りを具現化して自分を殺した。


 四肢を持った状態の身体に復元されたら、即座に行動を開始する。




 俺が守った兵士たちが名乗り終わって戦いに加わったり、リリベルが雷の魔法で援護を行ってくれたりした。


 それでも紫衣の魔女には攻撃を当てることができなかった。


 彼女はとても老婆とは思えない素早い足取りで避け、避け切ることができない攻撃には魔法を放って対処した。全ての攻撃が躱され相殺されるのだ。


 虫のようにぴょんぴょんと跳ね回り、壁に張りついては魔法を放ってくるその様は、不気味であった。




 一方、俺の身体は常に穴だらけだった。

 リリベルは俺に攻撃を与えないように極めて精度の高い雷を放ってくれるが、兵士たちは俺諸共に攻撃を行うため、後ろからも前からも攻撃に当たり続ける羽目になる。

 この場にいる誰もが鎧如きでは、防ぐことができない攻撃ができる者たちだったから、死ぬ理由には困らない。




 いつの間にそこにいたのかと驚くような瞬間移動を伴って斬撃を放つ者もいたが、老魔女は予知するかのように兵士の着地点に正確に狙いを定めて、魔法を放っていた。


 近くにいた腕の立ちそうな兵士に何らかの液体が当たると、彼は即座に溶けた。生焼けの臭いが鼻をつく。




 もっと巨大な物体を具現化して、紫衣の魔女の足でも逃げ切ることができない範囲を攻撃してやろうと思った。考えてから、具体的な物体を想像して、それを生み出せる魔力を放って、具現化しようとするまでの()は自慢では無いが、一瞬のはずだった。それこそ瞬き1つを行っている間の話だと思う。


 そんな短い時間の話なのに、紫衣の魔女はあっさりと俺の思考を読み取ったのだ。

 彼女は俺の想像力を削ぐべく、瞬間移動で目と鼻の先まで近付かれて、俺の顔に向かって真っ赤に光る粘度の高い液体を放ってきた。


 兜の中に流し込まれたそれが溶岩であると気付いたときには既に顔面は喪失していた。


 灼熱の痛みを感じて即座に自殺を図った。

 最早想像とは呼べない、一瞬の閃きで思いついた何かを具現化して、その全てを自らに叩き込む。

 死因が判別できなくても死にさえすれば良い。


 そうして、正常な身体に戻った俺は、再び魔女に戦いを挑むのだ。




 戦っている間に、鎧の中から声が聞こえた。




「死んでも死んでも立ち向かってくる(さま)は、まるで亡者ね」


 鎧の内側にできた影からの声だった。ラルルカだ。


 そこにいたのなら加勢して欲しかったが、俺が戦っているせいで素直に協力はしてくれないのだろう。

 だから代わりに国王たちの安全を確保するように彼女に願った。


 この状況が続けばいずれ、兵士たちは徐々に数を減らし、1人も残らなくなる。


 そうなる前に強制的に影の中に取り込んで、別の場所へ移動させて欲しい。




「無理に決まってるでしょ。紫衣の魔女はとっくにアタシの存在に気付いているのよ! アタシがアンタの言う通りのことをすれば、その前に皆殺しにされるのがオチだわ! ま、アンタがそれでも良いって言うならやってあげても良いけれど」


 どうやら紫衣の魔女もリリベルと同じように魅力を感知する能力に長けているようだ。


 ラルルカの存在も彼女が放つ魔力のせいで、既に存在を知られている。彼女が少しでも影を使えば、紫衣の魔女はそれに対応した動きを取ると悟った。




 それならと白衣(はくえ)の魔女の所在を確かめた。

 彼女の魔法なら兵士たちを癒やし続けることが可能だし、戦いながらでも紫衣の魔女の病を治すことも可能だと思ったからだ。


 しかし、ラルルカはこれも即座に拒否した。個人的な感情を大いに含ませて俺を困らせようとしていることはすぐに分かった。


「いいからさっさと紫衣の魔女を殺してみせなさいよ。アンタは、誰かの助けを借りないと何もできないの?」


 憎悪に満ちた言葉が俺を攻撃する。

 リリベルは俺が弱くても構わないと言ってくれる存在だが、ラルルカは弱いことを許せないと言う存在だ。

 白衣の魔女がこの場にいないことを幸いとして、俺を責め立てるラルルカの協力を取り付けることは叶いそうにない。




 彼女は、俺の実力だけで、紫衣の魔女を倒すことを望んでいた。


次回は10月7日更新予定です。

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