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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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集結する者7

 詠唱された魔法の効果を途切れさせる最も簡単な方法は、詠唱者を殺害することだ。

 デフテロを倒せば、拡大し続ける魔法陣は消えてくれるのでは無いかと思った。当然それは一縷(いちる)の望みであって、魔法陣の消失が確実だとは思えなかった。


 そして、デフテロが目の前から完全に消失しても尚、魔法陣が拡大し続けていたことを確認して、やっぱりと思った。




 巨大な月は真っ赤に染まって、とても眩しかった。赤い月なんて不吉この上無い代物を作り上げてしまった張本人がまさか俺になるとは思わなかった。

 あの月を己の意識から外せば、すぐにでも月の形を崩してもとの魔力に戻ることだろう。


 その前にリリベルに会ってことの次第を伝えようと思った。

 彼女に相談すれば月の魔力を処理する良い案がもらえるかもしれない。


 あの魔力の塊は、もとは彼女の魔力なのだから、彼女に吸収し直してもらえば全て丸く収まる可能性もある。


 それに何より、痛みを訴えていたリリベルの様子を早く確認したい。




 足場を具現化して、クローディアス王女の部屋まで直接乗り込む。

 月の具現化に意識のほとんどを向けているため、粗雑な足場しか作ることができない。滑り落ちないように注意することでもできない。


 例え足場から落ちたとしても月のことだけは頭から離れないようにしなければならない。




 破壊した壁から部屋に戻ってみたら、人の姿は見当たらなかった。

 リリベルもクローディアスもリゲルもいなかった。


 そうだった。退避しろと言ったのは俺だった。




 リリベルたちがどこにいるのかを探し当てなければならない。


 近くにいる兵士に聞けばすぐに分かるだろうと思って、部屋の外へ出ようとしたら、扉が向こうから開けられた。


 この城内にいる者と言えば、きっと兵士か使用人のだれかだろう。


 そう考えて、扉が開き切る前に王女と金色の髪を持った女の子の行方を尋ねた。




 しかし、扉が開いて目に入った者は、言葉が通じるか分からない風貌をしていた。

 全身が毛で覆われていて、頭の頂点に大きな耳がピンと立ち、目は赤く光っている。口先は尖っていて、剥き出した鋭い牙は、噛まれでもしたら簡単に肌を切り裂いてしまうだろう。


 明らかに敵意を剥き出しにした低い唸り声は、動物や魔物を意識させる。

 その見た目と声は狼に近かった。


 たまにリリベルに冗談を言うと、同じように唸られることがあったが、声の低さも違うし、愛らしさはまるで感じられない。

 影を纏ったラルルカの発する声に近い。


 2足で立つ、大柄な狼。ライカンという種族だ。




「言葉は……通じる……か?」

「グワン!!」


 咆哮と共に涎をまき散らしながら飛びかかってきたライカンに、俺ごときの反射神経では反応できなかった。


 肩に想像を絶する程の痛みが走る。剣の達人に刃で切られた時と違って、がむしゃらに噛みつかれてできた傷は、とつてもない痛みを発する。


 右腕がピクリとも動かせない。肩のほとんどが食い千切られている。


 しかし、その痛みは必死に我慢しなければならなかった。

 今、俺の意識は月を維持し続けるために、月以外の物事に意識を向けてはならないからだ。




 だから即座に自らの頭上に重量物を具現化して、それに身体を押し潰してもらった。


 自死に対する躊躇などしていられない。

 月を維持し続けるためには、ちっぽけな俺の死の1つや2つは天秤にはかけられない。

 きっとリリベルには怒られるだろうな。




 瞬間的に痛みを感じる前の身体に戻ってから、ライカンの位置を確認する。

 頭を振り乱して暴れ回って、家具を手当たり次第に破壊し、大分目立つ鼻音を鳴らし始めた。


 そして、激しい動きが止むと、一気にぐるりと身体をコチラに向けて睨みを効かせた。




 そこでライカンの全体像を改めて見ることができて、奴が服を着ていたことに気付いた。


 服のほとんどが破れているが、残った衣装の一部からして俺が着ている祝祭のための衣装と似ていた。


 だからすぐに勘付くことはできた。




「もしかして……ヴィリーか?」

「グルルォ!!」


 そういえば話が通じないのだった。




 再び飛びかかってくるライカンに対してできることは、防御に徹することだけだった。

 なぜライカンの姿に変わってしまったのかは分からないが、この狼人間にヴィリーである可能性がある以上、傷付けることはできない。


 気休め程度に壁を具現化して部屋から脱するが、ライカンは具現化した壁も、元々あった部屋の壁も諸共に突き破ってきた。




 ライカンの動きを見ながら、リリベルたちの居場所を探しながら、天井が破壊された廊下から見える巨大な赤い月を意識し続けることは、この頭1つではどうにも難しい。


 本当に必要なことだけを選択する必要があった。


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