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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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集結する者6

髑髏(スケルトゥス)よ』


 次の剣は長い背骨に生えた無数の肋骨が、デフテロの周囲にとぐろを巻き阻まれてしまう。

 更に地面からいくつもの人骨が生え出て、それぞれの腕がデフテロを持ち上げて、身動きの取ることができない奴の代わりの足となった。




「心から礼を言うよ! 死の危機に(ひん)した私の心が満たされていくじゃないか!」

「地獄の王の癖に、自らの欲望に忠実な奴だな。死者の魂を管理する使命はどこへいった!」


 どんな骨で守られようとも叩き割るだけだ。

 剣を振り下ろす瞬間に刀身を槌の頭に変化させて、より骨を折りやすい戦い方に変える。こちらの方が骨は砕きやすかった。


 しかし、俺がデフテロを守る骨を砕き割っている間に、奴は次の手を打ち始めていた。


 奴の言葉とともに、魔法陣の端が城からはみ出てくるように現れ始めた。その魔法陣は徐々に拡大していき、俺やデフテロが立つ場所にも侵食していく。


 頭上の月は地上の赤に同調するかのように、同じ色へと変化し始めていき、遂には天地は真っ赤に染まってしまった。




「勘違いしているでしょ」

「何をだ?」

「私は魔女たちの味方ではない」

「見れば分かる」


 蛇の骨を割り切り、デフテロ本体が露出される。

 槌を頂点まで振り上げて、そして渾身の力でもってデフテロに振り落とす。


「地獄の味方でもない」


 デフテロの頭蓋から肋骨、骨盤にかけて粉々に割り砕くことができた。

 それぞれの骨は一部残ってしまっているが、大部分が砕ければ奴が望む体勢を保つことはできないだろう。


「そうか、余程狂っているようだな」

「だから、黒衣(こくえ)の魔女に付き従っている」

「……な、に?」


髑髏(スケルトゥス)よ』




 左右から巨大な手骨が現れて、俺を掴もうとしていた。

 鎧を具現化する余力のない俺は、手を避けるため、そしてこれ以上骨が出現されないようにするため、デフテロの内に入り込み槌を叩きつけた。

 ほぼ無意識だ。


 即死すれば良いが、それが身動きを封じるための攻撃であれば、此方が不利になる可能性があった。

 だから、無意識にデフテロに向かって突進しながら槌を叩きつけたのだ。




 それがデフテロの挑発だと気付いたのは、奴の残った頭蓋骨を割ってしまった後のことだった。


「幸運、正に幸運。長い長い無味無臭の人生を終わらせてくれた黒騎士には感謝してもしきれない」

「何のつもりだ」

「どちらでも良かった。ここで私が死ぬのなら歓喜の渦に溺れ死ねる。ここで私が死なないのなら地獄を見届けられる」


 本来なら心臓があるだろう場所あたりで、小さな青い炎が揺らいでいた。今まで見えていなかったものが突如として現れた。

 それが奴の魂だろうか。


地獄よ来たれ(リ・へソロ)




 今や城の大部分が魔法陣に覆われているだろう。


 その拡大し続ける魔法陣を見て、嫌な予感がはっきりと感じ取られた。


 奴の詠唱は、ただ生者を燃える死者(ケイオネクロ)に変化させる効果があるのだと思っていた。




「さあ、私を消滅させるために世に生み出した月の後始末を、どうする?」

「この魔法陣の本当の効果は何だ?」

「ひはは! 聞きたかった言葉を聞いて欲しい瞬間に言ってくれるじゃないか!」


 デフテロの青い炎が徐々に小さくなっていく。

 奴を守る骨は徐々に砂のように崩れ落ちていく。俺が手を下さずとも、このままデフテロが消滅していくのだと察することはできた。


 それでもデフテロは、自らに起きている事態に焦ることは無く、絶対的な自信を持ったまま、力強い言葉を吐き続けた。


「この魔法陣は、一定の魔力が注ぎ込まれることで、この世界に地獄を表出させることができるのさ」




 その言葉でデフテロの目的を理解した。

 なぜ、大国のレムレットでこのようなだいそれたことをやったのか。

 なぜ、自身を殺す唯一の方法を俺に教えたのか。

 なぜ、俺たちを本気で殺そうとしなかったのか。




 魔力が必要だったのだ。

 途方もなく膨大な魔力が必要だったのだ。


 だから最も首都に国民が集まる祝祭の日を選んだのだ。

 だから祝祭の日に他の魔女を利用して襲撃させたのだ。




 恐らくこの地にいる全員を皆殺しにする予定だったのだろう。それぐらいのことをしてやっと、この魔法陣を発動することができる予定だったのに、そこに俺たちがこの地に来てしまったのだ。


 デフテロがずっと不敵に笑い続けていた理由が、ここにあるのだろう。




 そして、地獄をこの世界に表出させる理由は……。


「全ては、黒衣の魔女を蘇らせるためか」




 デフテロは全ての骨が塵になって消えるまで、笑い声を上げ続けた。


 全ては奴の掌の上だった。


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