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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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瞬きで命を奪う者3

 リリベルに肉体強化の魔法を詠唱してもらう間に、架空の兵士を具現化する。

 セシルの瞬きの対象の代わりになってくれるやもと思って具現化した。まさかこんな場面で、複数の兵士を具現化できるように練習した成果が披露できるとは思わなかった。


 ただ、具現化した兵士が瞬きの対象になるかの自信はない。運が悪ければ最初の瞬きで、俺の命が瞬く羽目になる可能性がある。




 囮の兵士を置いて、限界を超えて強化された肉体を頼りにリリベルとヴィリーを両手で持ち、セシルに背を向けて逃げた。


 セシルと面と向かって戦いたくない理由がある。


 彼女の使う魔法に『偽視罪(ぎしざい)』という魔法があるからだ。その魔法をかけられた者は、その者の視界に映る最も都合の悪いものを消し去ってしまう。

 消し去る代わりに自らの目を代償とする必要があるが、そのために彼女は生け贄代わりの弟子を用意しているのだ。


 彼女に心酔している弟子たちなら、喜んで彼女の命令に従い、共通の敵を抹殺するために己の目を犠牲にするだろう。


 その魔法は不死である俺たちを殺すことができる数少ない魔法なのだ。

 そして、銀衣(ぎんえ)の魔女を殺し得るかもしれない魔法でもある。




 友であるセシルを殺したくないという気持ちもあるが、それと同時に銀衣の魔女に対抗するために殺してはならないという気持ちもある。




 彼女の視界から外れようと走っていたはずだが、気付いたら身体が倒れていた。

 リリベルとヴィリーを持っていたはずなのに、いつの間にか腕から離れて放ってしまっていた。


 振り返ってみたら具現化したはずの架空の兵士が霧散していた。




 囮になる者がいない状態になり、彼女の視界に残っていた俺が死の対象となってしまったようだ。


「大人しく死んでくれるなら、苦しまずに殺してあげる……」




偽視罪(ぎしざい)』を即座に使わなかったということは、まだ僅かに正気が残っているからだろう。


 尚更彼女を殺したくない。




 セシルへの返答は保留にして、もう1度2人を抱え上げて逃げる体勢を取る。

 彼女の視界からさえ離れられたら、瞬きで死ぬことは無いはずだ。

 そして、俺たちがこの場から逃げおおせられたら、彼女は銀衣の魔女をどうにかしてくれるかもしれない。




 全力で疾走していたはずだが、再び転んでしまっていた。


「3度目は無いから……」


 どうやら次は例の魔法が詠唱されてしまうようだ。

 さて、どうしてくれようか。




「リリベル、合図をしたら雷を落としてくれないか?」

「今の私は目が見えないよ」

「リリベルの手を取って落として欲しい場所を指差す」

「ふふん。わかったよ」

「打ち合わせは終わった……?」


 セシルの目が此方を見ている。


 彼女の自然現象が今度はリリベルを殺した。リリベルが一瞬だけ力無く、ぐったりとしたことで気付いた。


 こう何度も動きを中断されてしまうと、戦いに集中できない。

 セシルは俺たち不死にとって天敵中の天敵だ。




「私を殺す算段はついた……?」

「いいや、そんなものは無い」

「お手上げってこと……? 珍しいわね……」


 赤い空にセシルの手が上がる。


 それは彼女の手の者に向けた合図だ。

 この屋根の上を見ている誰かが間もなく俺とリリベルを視界に入れるだろう。


 その前に彼女たちを撹乱し、その隙を突いて逃げる。セシルの魔法から逃れられる手は、それしか無い。




「セシル!!」

「……?」

「俺は、お前を友だと思っている!!」

「……なっ!?」


 セシルが驚き、振り上げていた手が下りる。

 セシルの合図が無くなった今、彼女の手の者は『偽視罪(ぎしざい)』の目を発揮することができなくなった。


 そして駄目押しだ。

 リリベルの人差し指を摘んで、雷を落としてもらいたい場所へ向けて指も向けさせる。


 彼女は自分の指が向けられた場所に向かって雷を落としてくれた。

 それはセシルのすぐ目の前だ。


「リリベル!」

瞬雷(しゅんらい)


 稲光がこの場にいる全ての者の視界を焼き付けさせる。




 セシルは目を閉じ、開けられなくなる。

 奪われたリリベルの視界も、しばらくは何も見えなくなるから位置を知られることもない。




 全身を鎧でかためた俺は、その隙に2人を担いで、一気に後ろへ駆け抜けた。


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