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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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瞬きで命を奪う者2

 瞬きだけで人を殺すことができるなら、リリベルの防衛を止めたことも頷ける。

 更に彼女は他者の視界を奪うこともできる。リリベルが視界を奪われたら、魔法で狙い撃ちすることもできなくなるだろう。

 城内に敵の侵入を許したことも頷ける。




「あー、ヒューゴ君。近くにいるのかい?」




 予想していた通り、彼女の視界はセシルに奪われているようだ。


 俺の視界も奪われてしまう前に、先手を打ってみる。

 すぐ真下で起きている銀衣(ぎんえ)の魔女の乱心をセシルたちに伝えれば、事態が好転するかもしれない。




「下にいる銀衣の魔女は、この国の者たちを皆殺しにする勢いだが、放っておいて良いのか?」


「何それ……。四衣(よつえ)の魔女、確かめて来て……」

「この男の言うことを信じるの?」

「四衣の魔女よりは信用できるけれど……」

「あっそ」




 マントを4枚も重ね着している魔女は、四衣の魔女と呼ばれていることが分かった。見たままの名前だ。

 四衣の魔女は俺が空けた穴を見つけると、そこから下の様子を覗き込んだ。


 そして、すぐに焦り始めた。


「げっ! 何よこれ! 燃える死者(ケイオネクロ)だらけじゃない!」

「銀衣の魔女が張った魔法陣の中にいると、ああなってしまうんだ」


「四衣の魔女……ここは私が何とかするから、班衣(はんえ)の魔女と一緒に銀衣の魔女を止めてきて……」

「はいはい。『歪んだ円卓の魔女』様の仰せの通りに」




『歩き潰せ!!』


 四衣の魔女の詠唱と共に数体のひとつ目(サイクロプス)が降り注いで来た。その巨体は屋根を破壊しながら着地して、四衣の魔女の指示を待った。

 彼女は俺が空けた穴の下を指差すと、ひとつ目たちはその穴を手で広げ始めた。


 たったひとつかみの手が後ろに向かって掻かれるだけで、屋根が引き千切れていく。その様子を見てしまったら、ひとつ目に掴まれなくて良かったと心から思う。


 そうしてリリベルたちを囲んでいたひとつ目たちも含めて、巨人は広がった穴から階下へ飛び降りて行った。

 四衣の魔女は、最後に飛び降りたひとつ目の肩に乗って、そのまま銀衣の魔女のもとへと向かって行った。




 残るはセシルだ。


 できることなら友のよしみで見逃して欲しいし見逃したいところだ。


 だが、彼女が紫衣の魔女の命令でここに来ているということは……。


「なぜだ、セシル。お前は人の命を無闇に奪うような魔女では無いはずだろう」

「無理に決まっているじゃない……殺したくて殺したくて仕方ないのだから……」


 ああ、やはり彼女も病に冒されている。

 黒衣(こくえ)の魔女が広めてしまった争いに傾倒してしまう病に、彼女も冒されてしまっている。




「止められない……無理だよ……」

「俺たちのことも殺したくて堪らないのか?」

「言わずもがな……」


 会話を続けながら、少しずつ横に歩き、リリベルのもとへ近付く。

 セシルは俺の動きを声だけで追っている。目は閉じられているが、いつでも開き再び閉じることができる状態だ。


 すぐさま瞬きを実行しないのは、辛うじて正気が残っているからだろうか。

 この場に白衣(はくえ)の魔女がいてくれたら、彼女を正気に戻せたはずなのに、今の俺やリリベルではどうすることもできない。




 セシルの目を注意深く見ながら、時には足場を気を付けながら歩を進める。


「戦う前に教えてくれないか。レムレットには一体何の用で来たんだ? この国にどういう結果をもたらすつもりだったのだ?」

「……」

「さすがに俺に教える訳にはいかなかったか?」

「いいえ、別に……」


 ようやくリリベルのもとに辿り着いたところで、彼女の身体に触れて俺の背中に隠れるように指示をした。

 視界を奪われていても、その他の感覚は依然として生きている。手で触れれば、彼女はすぐに反応を示して、俺の背中にひしと掴まった。




 ヴィリーはピクリとも動かない。


 呼吸によって腹が膨らみ萎む動作も見られない。


 死んでいるとしか思えない。




「いつもの、紫衣の魔女の我が儘よ……。国王を殺しに来たの……」

「国を混乱させて周辺国と戦争でもさせるつもりか」

「国王を殺した犯人は既に用意してあるから、戦争を行う相手は決まっているよ……」


 犯人は既に用意した?


「一体、どこの国と戦争させるつもり――」




 犯人を仕立てあげるつもりなら、それなりの既成事実というものが必要だ。

 目撃者がいたり、噂が上がったり、犯人本人による宣言があったりと様々だ。既成事実を構成するための情報が無ければ、誰も信じることはできない。


 生贄は確実に必要なはずだ。




 このレムレットにいることで、戦争が起きた時に最も都合の悪い人物を考えた。


 一瞬、俺とリリベルが国王を殺害する犯人に仕立てあげられるのかと思ったが、今先程まで行っていた会話からして、恐らくその予想は外れている。彼女は俺とリリベルがこの国に来ていることを知らなかった。




 戦争の相手が俺たちでないのであれば、次に思い浮かぶ人物は彼しかいない。


「オルクハイム王子……セントファリアか!」




 俺の問いに対する回答は無かった。


 だが、正解とでも言わんばかりに、セシルの片目は開かれた。


 1度開けば、次にその目蓋を閉じた時が攻撃になる。




 俺は選択を迫られていた。


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