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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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全てに貫通される者3

 会話はしてもらっても構わないが、身動きを取らせる訳にはいかない。

 何度銀衣(ぎんえ)の魔女に攻撃をすり抜けられようとも、邪魔をし続けるべく、斬りかかる。


「そして、私は地獄で出会ったのさ! 王に!!」


「まあ最初はそれが地獄の王だと言われても特に気にならなかった。見ての通りただの子どもだったから、牢から出ることなんてできなかったし、考えつく気力もなかったさ」




 魔女を金属塊に叩きつけると今度は塊の中にするりと入ってしまった。

 塊の向こう側から出てきているのではないかと思い、裏手に回ってみたが奴はいなかった。




「早く終われば良いと思って、何度も何度も錆びた鋏で口角を切っていたよ。それは良く憶えている」


 声は金属塊の上に立っていた。

 やはり奴には、任意に物体をすり抜ける(すべ)を持っている。


「でも、ある時、私を閉じ込めた牢が壊れた。誰かが脱獄を謀ったみたい。他の牢を破壊して回って、中にいた私みたいな奴を自由にさせて地獄に混乱を呼び込もうとしたみたい」


「当然、痛みから(のが)れたくて鋏を護身用に逃げ回った。馬鹿正直に自傷に励むつもり気なんか起きなかったから。なぜ、あんな痛い思いをしなければいけないのかっていう理由すら分からなかったし」




 銀衣の魔女に向けて更に金属塊を具現化してやろうと思ったところだった。


 広場に通じる大きな扉が勢い良く破られた。扉が弾け飛び頭上を越えて、その向こう側にいる兵士たちの騒ぎが大きくなる。

 そして、煙に紛れてひとつ目(サイクロプス)が城内に侵入して来た。


 それは、リリベルの身に何かがあったことを意味していた。




 踏み鳴らす者(ストンプマン)とはまた違った絶望感を感じさせる巨体に、頭の中の俺が全神経をひとつ目に向けるのか、銀衣の魔女に向けるかの決断を迫ってきた。


「逃げ回っていたら王の間に辿り着いて、そこで脱獄の首謀者が王と戦っているのを見た。脱獄者は私が部屋に来てすぐに消滅したのを見たけれど、少しは()のある奴だったみたいで、王は満身創痍だった」


 ひとつ目は傍にあった馬鹿みたいな太さの柱を掴むと、乱暴に抜き取りそれを振り回した。

 燃える死者(ケイオネクロ)ごと柱に薙ぎ払われた俺は、一瞬で吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。当然、即死だ。


 すぐに立ち上がって銀衣の魔女とひとつ目の位置を確認しようとするが、今度は暴風が吹き荒れ始めた。風が当たる場所全てが一瞬で氷に覆われる。

 その氷に俺も巻き込まれてしまい、身動きが一瞬で取れなくなる。鎧を着込んでいたおかげで死ぬことは無かったが、何もできないのであれば死んでいるのも同然だ。


 必死に身を捩ってみるが、どんどん氷は大きくなって身体が重くなっていくばかりだ。このままでは生きたまま氷の置物にさせられてしまう。




 燃える死者たちは氷の中に包まれている。

 彼等の熱量に打ち勝てる氷を生み出せる魔法使いがレムレットにはいるようだ。




「私は王に立ち向かった。勝てるなんて微塵も思っていなかった。ただ、異形の姿をした王と目が合ってしまい、逃げることができないことを悟って、それなら魂の清算なんかせずに楽に殺してもらおうと思った」


 銀衣の魔女だけは違う。奴は氷の中をすり抜け続け、身動きが取れなくなった俺のもとへ骨だらけの杖を突きながら近付いた。

 氷魔法で身動きを封じさせた兵士たちが一斉にやってきて、俺や銀衣の魔女、ひとつ目を攻撃し始める。

 身体強化の魔法によって馬鹿力を得た兵士たちは、容赦無く俺の手足を吹き飛ばしていった。当然、即死だ。


 見えてはいないが、柱の振り回しがそれ以上こないということは、多分ひとつ目の方は死んでいるのだろう。


 だが、俺と銀衣の魔女は共に死なない。


 互いの視線は未だに外れていない。

 周囲からどのような攻撃を受けようとも、視線を外してはいけない存在を見続けている。


 周囲の兵士たちの攻撃も、銀衣の魔女がいる場合には雑音としか受け入れられない。




「ひはは、それなのにさ。鋏を突き出しながら走って行ったら、王に刺さった。刺さる訳無いと思った。刺さる前に殺されると思っていたから。それなのに! 何の冗談か王はそれで死んでしまったのさ!」


 それもそうだ。

 その鋏はただの鋏では無い。地獄の王アアイアが作り出した、魂の清算を行うための特別な武器だ。地獄の監獄に投獄された者たちが他の王を攻撃できる唯一の武器となる物だ。

 魔法使いは別だが。




「そうしたら、地獄の王を殺した罪で、前の王に代わって私が地獄の王を務めることになった。地獄の王の代わりはそう見つかるものでは無いようだから」




 それはあまりに衝撃的な言葉で、リリベルに至近距離で雷を落とされた時のように、俺の耳は周囲の音が聞こえなくなってしまった。

 ただ、雷を落とされた時と違うのは、銀衣の魔女の声だけは聞こえるということだ。


「元が人間であった私は、他の地獄の王と違って、彼等を作った主に愛着も興味も無かった。だからこそ私を従えるための()()が必要だった」




「その()()が、呪いなのさ」




 ありとあらゆる兵士たちの攻撃が銀衣の魔女をすり抜けていく。唯一干渉できている歩いている床以外に、誰も奴に干渉できるものは無い。


「私はこの世全てのものから無視されている」


 笑いと共に、奴に背負われていた骨が再びかたかたと鳴り始めた。ただ、肝心の奴の顔は、周囲の兵士たちのあらゆる攻撃のせいで見えていない。


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