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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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全てに貫通される者2

 笑う銀衣(ぎんえ)の魔女に対して俺ができることはただ1つ。


 ひたすらに銀衣の魔女の気を引き続けることだ。

 リリベルが他の襲撃者を倒し終わるまで、ひたすらこの魔女と戦い続けるのだ。


 例え銀衣の魔女が不死身だとしても、数多の強者が集うレムレットにたった1人になるであろう魔女が太刀打ちできるとは思えない。

 この魔女の実力がこの国にいる誰よりも上だというのであれば話は別だが、奴は『歪んだ円卓の魔女』でもないようだから、その可能性は低いとしか言えない。




「ははあ、意図が見えてきた。私がするべきことを邪魔して足止めをしたいと?」


 銀衣の魔女は本来なら既に針のむしろになっていなければならない。言葉なんか聞ける状態では無いはずだ。


 何度も殴った。


 何度も斬って刺した。


 それでもなお奴は生きている。




 血は出ないし、青痣もできないし、手足が取れたりもしない。


 全てが正常な状態のまま魔女は会話だけを続けた。




 銀衣の魔女は燃える死者(ケイオネクロ)を城内に呼び出し、俺と魔女を囲むように彷徨っている。

 いくら馬鹿みたいに広い空間であっても、金属塊で空けた穴以外に空気が流れそうな場所は無い。

 だからこの広間にいるだけで肌全てを爛れさせる熱が充満してしまっている。


 故に俺たちに襲いかかろうとしていた兵士は退却せざるを得ない状況になっている。




 熱波は木製の調度品や布製の敷物や旗を発火させ、大理石の床をジャムにする。

 兵士たちは炎が燃え広がらないように、莫大な量の水や氷を出現させてこの広間を囲っている。魔力石を使っているのか、魔法を詠唱しているのかは分からないが、いずれにせよ最後には水や氷を生み出す源が失われてしまうだろう。




 黒鎧の中で焼死を繰り返していた俺は、今では熱に関する知覚が失われている。感覚が馬鹿になっているというべきか。


 ここに至るまでに受けてきた度重なる痛みの享受によって、頭がこれ以上痛みを感じることを拒否しているのかもしれない。

 おかげで想像の邪魔をされることは無かった。

 この点については、幸運だ。




「そろそろヒントぐらい貰えないか? どうやったらお前は死ぬ?」


 銀衣の魔女に挑発する。

 相手が正気なら普通は答えない。どこに自分の弱点を教える奴がいるかという話だ。


 だが、奴は絶対に教えてくれるという自信があった。


 奴が異常な自信家だからだ。

 最後には絶対に自身が勝つと思っているかのように、本人は不動を貫き続けている。


 反撃は一切無い。

 それは、いつでも俺の足止めを無意味な行動へと変えさせる自信があるからだろう。




 銀衣の魔女は杖を高々に掲げた。杖の先を指しているかのようだったからその先を見てみたが、あるのは馬鹿みたいに高さのある天井と夜空まで突き抜けてしまった穴だけだ。




「自分語りをさせて貰っても?」

「焼死続きでうんざりしているんだ。手短(てみじか)に頼む」




 会話の途中でも攻撃を止めるつもりは無い。

 会話に乗った自信家の魔女が、自分語りを始めると言っているのだ。さぞ、自慢したいのだろう。


 例え話を途中で遮ったとしても奴は話し続けるはずだ。




 髪に隠れていない目を剣でくり抜き、そのまま上に振り上げる。


 腹を蹴って倒して、剣で何度も刺す。


 そして、もう1度想像し得る限りで重い金属塊を空中に具現化して、落下の勢いで圧し潰す。




「私は本来なら既にこの世にはいない存在。流行り病で呆気なく死んで、皆からは可哀想だったと評されるような存在」


「死ぬのは嫌だったよ。確か、あの時は別に魔女になりたいなんて思っちゃいなかったな。将来の想像図が別にあった気がするけれど、とにかくそれが達成できずに終わることはとても辛かったはずだ」


「私は無理矢理、地獄と呼ばれる世界に流れ着かされた。知っている? 地獄では()()()()と呼ばれる行事があるのさ」


 それは知っている。経験済みだ。滅茶苦茶痛い。

 地獄が当たり前に存在しているかのような言い分は、俺とリリベルには通じるかもしれないが、それ以外には通じないはずだ。普通なら到底信じられる話じゃない。

 まさか、俺が地獄に行ったことを知っているのだろうか。


「地獄、正に地獄のような痛み!」

「な!?」




 歓声を上げながら金属塊から銀衣の魔女が突然飛び出してきた。


 重量物に押し潰されて身動きなんて取ることができないはずなのに、まるで始めからそこに何も無かったかのように、平然と金属塊から出現してきた。


 奴は全てをすり抜けて正常な状態を維持し続けた。



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