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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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反撃に参加する者3

 今の俺の想像力では離れた場所にいる巨体に致命的な打撃を与える攻撃方法が無い。

 街の被害を考慮しなければ攻撃できる手段は幾らでもあるが、この戦いに関係の無い者たちに確実に被害が及ぶことを考えると実行に移すことはできない。


 こういう時に頼りになるのは、やっぱりリリベルだ。


「リリベル、広場で出迎えている兵士たちを傷付けないようにひとつ目(サイクロプス)や樹木を攻撃できるか?」

「ふふん、任せなさい」


 彼女は両手を腰に当てて、胸を張って鼻息荒くした後、左手を前に突き出して、呪文と共に雷を放ち始めた。

 俺に頼られたことで、彼女はご機嫌のようだ。


 彼女の高い魔力制御力は、局所的に攻撃することを可能とする。周囲に被害を出さない攻撃も圧倒的な破壊力で敵を殲滅する攻撃も、彼女ならお手のものなのである。

 凄まじい精度でひとつ目の脳天に細長い光の槍が突き刺さり、煙と共にその場に倒れていく。

 横に成長し続ける木枝にも雷は直撃していて、木枝は真っ二つに割れ、直撃した箇所周辺から発火が始まっていた。




 落雷に呼応するように、城から出てきた兵士たちが広場に現れたひとつ目や樹木に応戦を始めた。


 ひとつ目の腕振りに当たり吹き飛ばされて、人の形を失う者は少なからずいたが、中にはひとつ目の動きを超える動きによってひとつ目の手足を切りつけ動きを鈍らせる者もいた。

 次々に兵士たちがひとつ目の動きを止めると、彼等の後ろに控えていた魔法使いたちが巨体に向かって、いくつもの光の矢を真っ直ぐ飛ばし貫いた。


 無数の枝を伸ばす樹木は、圧倒的な速度で成長して兵士たちを刺し貫いていく。槍のように鋭く伸びた枝先は、鎧を簡単に貫通できる程の力と重量を持っていた。

 兵士を貫いた枝は、空へ向かって伸び始める。獲物を仕留めた後に枝に刺して保存する修正を持つ動物がいることをリリベルが所有する本で知ったが、彼等は正にその本で読んだ保存食のようだった。


 だが、兵士たちも黙って殺されていくだけでは無い。

 伸びる枝先を華麗に躱して巨大な樹上に乗り、炎の魔力石や爆発する魔力石を使用して伸びようとする木枝を破壊してまわっていた。

 これ以上城の方へ枝が成長しないように、彼等は枝の剪定(せんてい)に努めていた。




 兵士たちの戦いぶりは見惚れるばかりであるが、それでもリリベルの方がすごかった。

 兵士たちが1本の枝を破壊するまでの間にリリベルは10本以上の枝を破壊しているし、兵士たちが1体のひとつ目を転ばせて首を切っている間に、リリベルは5体以上のひとつ目が頭を黒焦げにして戦闘不能にさせている。


 レムレットの首都で、しかも国王や娘が住まう建物を守る兵士たちだから、実力は国の中でも最上位に位置する者たちであることは明白だ。

 だが、それでもリリベルには敵わない。


 俺は彼女に雷魔法を教えた師匠ではないが、リリベルの方がひとつ目や樹木に対する効率的で強力な雷魔法を放っている場面を見ていると、鼻が高い気になる。




「どうだ、俺の主人はすごいんだぞ」と叫んで場にいる兵士や魔女全員に、大声で自慢したくなる。




 勿論、そんなことをしてしまえば、魔女にも兵士たちにも怪しい3人組の姿を認識されてしまうから、実際にはやらない。




 広場での戦いを見ていると、この状態がしばらく続くなら少なくとも俺たちに負けは無いと確信できた。


 城に迫っていた樹木やひとつ目は徐々に進む勢いを失っていて、下手をしたら広場の奥へ押し戻してしまいそうな勢いだった。




 紫衣(しえ)の魔女は、部下が無闇に命を散らしていると知ったら、きっと次の策を講じてくるに違いない。

 魔女たちの狂気と戦闘能力の高さをこの身で痛い程思い知らされた俺だから、まだ油断できないでいられる。




「匂いが……後ろから……!」


 ヴィリーが新たな匂いを感知したことを告げて、彼と共に振り返る。

 広場の魔女たちへの攻撃はそのままリリベルに続けてもらい、俺とヴィリーで後ろからやって来た匂いの元と戦うことにする。


 彼が知らせた匂いは、嫌な匂いの分類であった。


 だから、後ろから来た者はきっと魔女だと思った。




 馬鹿みたいに視界に広がる屋根上には、誰の姿も無かった。

 ヴィリーの鼻が間違いを起こすなんて信じられなかったので、警戒を解くことはできない。




 一体どこに敵がいるのか。


 どこから出現するのか。




 まさか、空だろうか?


 いや、空には何も無い。空には、切れ端のような雲と、もう月と呼べる大きさにない非常に小さな輝きを放つ月ぐらいしか存在しない。




 では、どこから来るというのか。






「……下だった……!」

「何!」


 気付いた時には遅く、俺の足は何者かに掴まれていた。

 足を掴まれたせいで、まともな身動きができず、すぐに身体は後ろへ倒れてしまう。城の際に立っていなかったおかげで、城から落下することは無かったのは幸いだ。




 しかし、転んだおかげで、俺の足首を掴んでいたものが、すぐに分かった。




 骨だ。


 やけに鋭い爪を持った手の骨が、足首を掴み続け、そして立てた爪が肉に食い込んでいた。当然血は出ている。




 骨というだけで嫌な予感がしてきたが、その予感は俺の願いを考慮してくれることなく、予感を爆発させてしまった。




「ひはは」


次回は9月15日更新予定です。

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