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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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反撃に参加する者2

 クローディアス王女に頼み込んで、ラズバム国王に謁見させてもらった。

 本来なら門前払いを食らうところだが、クローディアス王女が敵襲に関する重要な情報を入手したと言ってもらったら、間もなく案内してくれた。




 兜を外したリリベルの顔を見たラズバム国王は、口を開けたまま固まってしまった。


「に、似ている……あまりにも……1つの違いもなく」


 オルクハイム王子も口元をしきりに触りながら驚いていた。


 王女と隣り合わせに立っていたリリベルは、正に瓜二つであった。

 背丈も声質も、目鼻顔立ちも寸分の違いなくそこに形作られている。

 唯一、喋り方が違うが、それも互いの喋り方に合わせて真似すれば、区別がつかなくなる。




 驚いて声も出ない国王に、俺たちがこれまでに起こした事のあらましを、嘘を混じえて伝えた。


 俺たちがこの先、レムレットで動きやすくなるために作り上げた話は次のとおりだ。


 祝祭に参加したのは、本物の王女ではなく、リリベルだった。

 クローディアス王女を守るために、俺とリリベルで偽の王女と王子を演じて、身代わりになった。


 襲撃者が魔女であることは知っていたが、それを国王に伝える暇が無くて、国王と王妃を騙す形で行動させてもらった。

 襲撃者はこの国に混乱を生ませ、他国との争いに発展させることを目的としていて、俺たちは友であるルチアーノと共にそれを阻止しようと尽力してきた。


 しかし、結果として、最悪の形となって問題が起きてしまった。


「お父様に言っておきますが、何が起きようとも私はオルクハイム様とは結婚いたすつもりはありませんわ」

「それについては、今は良い……!」




 国王は少しの間目を閉じて唸ってから、また口を開いた。


「娘の命を救ってくれたことは感謝する。しかし、これは我が国の問題だ。他国の者の手を借りるつもりは無い」


 国王は大声で部屋の外にいる兵士を呼びつけ、俺たちを別室に案内するように言いつけた。


 大国としての矜持が他者の手を借りることを阻ませてしまった。

 しかしこれに関しては、偽の王女に(ふん)していたリリベルとの会話を聞いていたこともあって、半ば予想はついていた。


「故も知らぬ我々のために寛大なる処遇をいただき感謝いたします」


 当たり障りのない言葉でこの場をやり過ごして、俺たちは兵士に案内されるがままに、迎賓用の部屋に入れられた。




 ルチアーノは既に、レムレット国境付近にいるカネリたちのもとへ向かっている。


 俺とリリベルとヴィリーは馬鹿みたいに広い部屋の1つの長椅子に、仲良く並んで座っていた。




「ヒューゴ君の提案を断るなんて、彼も馬鹿な男だね」


 それは慰めのつもりで言ってくれているのだろうか。


「断られるという予想はできていたさ。さあ、行こう」

「……行くって、勝手に出て行くつもり?」


 国王の言いつけを律儀に守ろうとしていたヴィリーに、俺は即答で返した。


「当たり前だ。俺とリリベルは聞き分けの良い子ではないからな」

「……子っていう年齢ではないと思う」


 冗談のつもりで言ったので、真面目に返して欲しくはなかった。






 夜になったおかげで俺たちの怪しい動きが他の兵士に気取られることは無かった。彼等は城外に気を向けていて、城をよじ登って屋根の上から様子を見ている俺たちに気付きもしないだろう。


 馬鹿みたいに高い屋根のおかげで、城の周りに建っている塔からも俺たちの姿は見えにくいだろう。


 眼下に映る広場では戦いが起きていた。


 魔女協会以外で多数の魔女を見るのは初めてかもしれない。




 魔女たちは鮮やかな色光を城に向かって撃ち放ち、レムレットに属する魔女か魔法使いが薄く伸ばした光の壁で防御する。

 兵士はそれぞれに肉体強化の魔法がかけられているようで、化け物じみた速度で魔女たちを斬り殺していた。


 一見して此方が圧倒的に有利に見えるが、たまに誰に攻撃された訳でもないのに突然倒れていく兵士がいるのを見ると、光を伴わない魔法を詠唱できる魔女が、どこか遠く離れた所から一方的に攻撃している。


 リリベルの魔力感知とヴィリーの鼻でそういう厄介な魔女を探してもらい、遠眼鏡で位置を確認しながら具現化する力を駆使して、彼等が感知できない魔女を狙い殺す。

 大抵は魔女の頭上に重量物を具現化してそれで押し潰せばことが足りる。


 直接姿が確認できないなら、リリベルたちが感知してくれた位置に向けて更に巨大な重量物を具現化して、建物があればそれごと押し潰した。




 命を奪っている実感は全く無い。

 そこで不意に、魔女たちが躊躇無く他者を殺せるのは、俺と同じように殺している実感が湧かないからなのかもしれないと思った。

 直接その手で刺したり殴ったりして、傷付けている相手がいると触感で感じ取ることができないから、狂ったように簡単に誰かを殺してしまうのだ。


 この感覚は慣れるべきじゃない。


 今だって、巨大な岩を具現化して建物ごと潰してみせたが、見えていないだけで何の罪も無い人々も一緒に死なせてしまっているのかもしれない。


 背負うべき罪を認知する機会すら失ってしまいそうだったから、早くこの()()が終わって欲しいとさえ思った。

 別に殺したがりな訳じゃない。


 俺とリリベルがこの先の未来を平和に生きるために、他者を犠牲にしているという実感を覚えなければならないと思っているだけだ。




「おや」

「……とても臭い」


 2人の反応が変わった。


「あっちと、あっちだね」


 2人が指差した2箇所の方向から、目に見えて分かる異変が現れた。


 広場を越えた街中の右手からは、建物よりも大きな巨人が何体も顔だけを覗かせ始めていた。

 遠眼鏡で見たその巨人の特徴をリリベルに伝えると、彼女はひと言「それはひとつ目(サイクロプス)だね」と言った。


 ひとつ目たちは、元々ある道など知ったことかと言わんばかりに、行く手にある建物を薙ぎ払い倒していった。




 そして、右手から来ているひとつ目たちと同じぐらい離れた距離にある左手奥の方からは、巨大な樹木が生えていた。

 樹木は異常な速さで木枝を伸ばして、建物を押し倒しながら此方へ近付いて来ていた。




 それぞれの行く手にあった建物が全て取り除かれると、ひとつ目たちと樹木が広場に到達した。


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