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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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反撃に参加する者

 リリベルの記憶と勘を頼りに地下道を走り続けていると、前方にルチアーノの姿があった。

 俺とリリベルの名を呼んだから、今はルチアーノの皮を被ったエリスロースである。


 階段を一気に駆け上がって取水塔の内部に辿り着くと、クローディアスとリゲルの2人が待っていた。


「外へ出て城の中へ!」

「先程の女は襲撃者か!?」

「多分、そうだろう。魔女だった」


 リゲルたちの疑問に答えながら、外へ出る扉を開けて中庭に躍り出る。

 本物の王女がいるので、今度は堂々と城へ入る扉を開けて逃げ込むことに成功した。


 リゲルは敵が地下から来ていることを周囲の兵士たちに伝えて、彼等を防衛に向かわせた。

 間もなく、精鋭が魔女を狩りに行ってくれるはずだ。

 これだけの巨大な国だから魔女に対抗する力を持ち合わせている者は、星の数程いると思っている。




 城内に入ってやっと落ち着く暇ができて、その時になって紫衣(しえ)の魔女がこの地にいるのか質問しておけば良かったと後悔する。


「正直に答えてくれるとは思えないけれどね」

銀衣(ぎんえ)の魔女の話し方や態度を見て、あの魔女はかなりの自信家だと思った」


 リリベルの顔がぱっと明るくなる。

 彼女は俺が推察することを好む。彼女曰く、集めた情報で想像して物事を語る能力は、彼女より俺の方が上らしいのだ。

 今まで彼女と長い時間を過ごしてきたが、俺が彼女よりも推察する力があるとはどうしても思えない。むしろ彼女の方が知識や経験を利用して、綺麗な理論立てをする。


 色眼鏡で見られている可能性が大いにあるだろう。


 それでも、彼女に褒められること自体に悪い気はしないから、彼女の期待に応えようと話を続けた。


 魔女は名前を明かすことを良しとしないはずなのに、わざわざ名乗り、そしてリリベルに名を自慢したことや、俺たちが逃げても追いかけたり攻撃したりしなかったこと等を、銀衣(ぎんえ)の魔女の自信過剰さの理由として挙げた。




「奴は袋小路から抜け出そうとした俺たちを見ても、何も反応しなかった。攻撃するために走ったのかもしれないのに、防御を行う姿勢すら見せなかった」

「彼女にとって私たちの攻撃は意に介する必要が無いってことだね」

「例え防御する必要が無かったとしても、俺たちを追い詰めたのなら逃がす意味がないだろう。俺たちに攻撃させないように、先手を打つか避ける必要があったはずだ」


 あの場で俺たちを逃がしたとしても、反撃の兵士を寄越されたとしても、いつでも蹴散らして殺すことができると思っているのだ。


 それが本当に実現できるかはさておき、あの魔女の思考自体は圧倒的な自信から来るものだと言って良いだろう。


「ヒューゴ君がそこまで言うのなら、彼女の性格は自信家で間違いないのだろうね」


 次にリリベルは「ただ」と付け加えて神妙な面持ちになった。


「ヒューゴ君がこうして()()を持って彼女の性質を評したということは、彼女の力は相当なものだということだね」

「え……?」

「嫌な予感を、感じているのでしょう?」






 馬鹿みたいに長く広く入り組んだ場内の通路を、足早で進み続けて、ようやくクローディアス王女の自室前に到着した。


 自室前で兵士と共に待っていたヴィリーを発見して、これで集まるべき者たちは全て集まった。


 本当なら一刻も早くこの国から立ち去りたい所だが、そうはいかない。


 他の兵士は、リリベルとクローディアス王女を交互に見つめ、余りに酷似した顔に驚き呆けて「こんなに王女に似ている者がいたなんて……」と呟いていた。

 同感だ。こんなにリリベルに似ている者がいるなんて思いもしなかった。


 兵士たちが呆けている間に、クローディアス王女に頼み込んで彼女の部屋に、俺たち3人とルチアーノを入れさせてもらった。




 ここで、作戦会議をさせてもらうことにした。

 リゲルが王女の服に付着した汚れを払っている間に、4人で部屋の隅に固まる。王女とリゲルは、俺たちのことを他国の間諜だと勘違いしていそうな表情で見つめているので、後ですぐに弁明しなければならない。


 その前に、声をひそめて話し合った。


「ヒューゴ君、次はどうするかい?」

「ヒューゴ、どうする?」

「……ヒューゴ、次の手は?」


 と言ってもリリベル、エリスロース、ヴィリーが一斉に俺に意見を求めてきて、次の手が俺の判断に委ねられていることを知った。

 3方向からの圧力に一瞬たじろいでしまったが、話しやすいから願ったり叶ったりである。


「この襲撃事件は俺たちの計画を失敗させることになってしまったが、逆に幸運でもあった。この国で起きている混乱を利用させてもらう」

「……首都で行動を続けるって? それなら国境近くで待っている味方はどうする?」

「エリスロース、皆を首都に引き連れてくれるか? クローディアス王女の側近であるルチアーノの姿で移動すれば、怪しまれることはないし、血だけで移動すれば国境付近に集まっている兵士たちにバレにくいだろう」

「分かった、ああ分かった。王女に報告してからすぐに行く」


 侵入時はラルルカの影で移動すれば良い。

 例え魔力で感知されたとしても、罠魔法でも仕掛けられていない限り、影の中を移動する彼女の速度に誰も追い付かれることは無いはずだ。


「俺とリリベルとヴィリーは、襲撃者の攻撃から城を守る。銀衣の魔女の存在からして、魔女協会が関わっていることは確実だ」

「……襲撃者を撃退?」

「そうだ。何せ、この大陸で最大の国を相手にした襲撃だ。大規模な戦争に向かわせたがっている可能性が高いだろう。だから、襲撃者たちを撃退する、この争いが何事もなく終結に向かうと知られたら、力のある魔女がやって来るはずだ」


 紫衣の魔女は戦いたくて戦いたくて落ち着かないはずだ。

 戦争に身を置くことに至福を覚える魔女の居場所を奪えば、今度こそ紫衣(しえ)の魔女が現れるはずだ。


「それは、この国に更なる犠牲を生む可能性を孕んでいると思うけれど、覚悟はしているのかな?」


 リリベルの言葉が表しているのは、レムレットに住まう無力な人たちが俺のせいで死ぬかもしれないことを差している。

 魔女を撃退すれば、より強力な魔女が襲撃を成功させるために出張ってくる。争いが更に争いを呼び、無関係な者たちが死んでいくことになるだろう。


 彼女は、俺のせいで誰かが死ぬことになることを理解して言っているのかと問いかけているのだ。


「勿論だ」




 できることなら全てを守りたい。


 国境付近で偽の戦争をけしかけようとしたのも、具現化した兵士と戦わせて誰の命も失わせないようにするためだったからだ。

 それが最上の方法だと思って計画して行動してきた。


 だが、今は襲撃によって既に誰かの命が失われている。このまま何もせずに4人で逃げ帰っても、状況が好転することはなく、魔女の襲撃による犠牲は増え続けるだけだ。


 それに、この国だけではない。世界中で戦いに狂った者たちが、今も無力な者たちを巻き添えに命を落とし続けている。


 全ての戦いを止めるために、戦いの元凶となっている魔女を止めなければならない。

 だから、俺が新たに立てた計画によって誰かが確実に死ぬと分かっていたとしても、進まなければならない。背中にのしかかる無数の罪が、俺の背を低くさせていくだろうが、それでも突き進むしかない。


 俺がもっと強ければ良かったのにと思う。

 リリベルから強い力をもらったというのに、俺はどこまでいっても強欲だ。


「だが、1人でも犠牲を増やさないようにしたいとは思っている。だから、助けてくれ」




「……仕方ないな」

「勿論だよ」


 リリベルとヴィリーの即答が次の行動に進む決心をより強く固めてくれた。


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