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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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地獄を呼び寄せる者2

デフテロ(2つ目の)エピローゴス(物語のおわり)だなんて、大層な名前だね」

「リリベル! 後ろに下がってくれ!」


 燃える死者(ケイオネクロ)の動きが鈍いとはいえ、熱は放出されている。

 リリベルが熱に焼かれる前に逃げるべきだ。


 それなのに、魔女2人は悠々と会話を続けている。


「格好良くない?」

「格好良いね」


 その会話もどうかと思うが。




 会話を行う彼女たちをこれ幸いと、盾を放り投げてリリベルを抱えて、先に逃げた王女たちの後を追う。


「前々から思っていたが、リリベルの思う格好良いってあまり格好良くない気が……」

「ぐるる」


 背中に敵がいるのに、前にも敵ができそうだった。

 これ以上敵を増やすことは得策ではないので、言葉を訂正して謝り、後は全力で走り抜く。




 あの骨だらけの魔女と祝祭を襲った閃光とが無関係ではないことの察しは、さすがにできている。

 背中から骨で貫かれて足止めを食らわないように、道を真っ直ぐ走ることはせずに、すぐそこにあった角を曲がる。


 絶対に道に迷うだろうが、痛みを得ずに済むのならじぐざくに曲がって逃げた方が良い。




「銀衣の魔女って、何者だ?」

「残念ながら知らないよ。初めて聞く(かんむり)だよ」


 彼女の知らない魔女か。

 何か情報を得られたらと思ったが、中々上手くはいかないものである。




「ヒューゴ君、次を左」

「分かった!」


 彼女の記憶力なら、例え地下道の全てを把握していなくとも、出口までの筋道を立てることは可能だ。


「あ」


 行き止まりがなければの話だが。


「不運、正に不運」


 銀衣(ぎんえ)の魔女が真後ろにいた。

 こっちは走って逃げて来たというのに、彼女は肩で息をすることもなく平然としていた。


「前置きしておくけれど、私が雷を放てば地下道にいる皆の身体がどうなるかは保証できないよ」

「分かっている。衝撃で兵士たちが気絶でもして、燃える死者(ケイオネクロ)の熱で焼かれるのは俺も望まない」


 杖が2度、床を突く音が鳴る。攻撃もせずにわざわざ注意を向けさせるために、その動作を行うのは余程の自信家なのだろうか。


「どころでなぜ名を明かした、デフテロ? 俺は魔女ではないから、決闘のための名乗りなんか無意味だぞ」

「ひはは、誰だか分からない奴に殺されるのは、嫌でしょ? 親切さ」


 やはり自信家だ。

 魔女が名前を明かすことはご法度なのに、わざと名乗ったことも、今の会話に乗ってくれるのも、俺たちをどうにでもできるという余裕からきている。




「狙いは王女のようだが、こんな所でたった2人の兵士を相手にしていて良いのか? 彼女はもうとっくに地上に出ているだろうし、今頃地上はお前を迎え討つために守りを固めているはずだぞ」


 この狭い空間で再び燃える死者を生み出されたら、ただでは済まない。

 地上に出られさえすれば、俺もリリベルも存分に力を振るえるから、さっさとここから抜け出したい。

 ともなれば、道を塞いでいる銀衣の魔女に攻撃してどかす必要がある。


 俺はリリベルと違って器用な性格ではない。

 会話を行いながら具現化のための想像をすることは簡単ではない。できないことはないが、きっと不完全な具現化になるだろう。


「王女、ね……ひはは」


 だからリリベルを抱き上げる手の指で、彼女をとんと叩く。

 普通なら言葉を交わさなければできないことでも、俺と彼女ならできる。




 残念ながら自信はない。




「ひ、ひひ」


 魔女が笑うたびに骨がかたかたと鳴り始める。まるで、骨が喋っているようだ。


「ひは、ひははははぁ!!」


 魔女が笑っている間に、彼女の頭上に岩を想像する。

 大量の岩で押し潰されてしまえば、さすがに自信家の魔女の動きも止められるだろう。


 その隙に逃げれば良い。


「笑っているだけじゃ分からないよ。何が面白いのか教えてくれないかな?」


 俺の意図を汲んだリリベルが時間を稼いでくれている。


「別に王女でなくても良い」




 土を蹴って走り、同時に岩を具現化する。人間ぐらいだったら簡単に押し潰せるような岩だ。


 頭上から降り注ぐ岩に気付かないまま、笑い続ける魔女は何か言葉を続けようとするが、それよりも前に岩は頭蓋に直撃した。

 魔女は俺が走り出しているのに、行く手を塞ぐ手を一切打たなかった。


 俺たちは簡単に横を通り過ぎて逃げることができた。


次回は9月11日更新予定です。

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