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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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探し彷徨う者

「どうされましたか?」


 扉を開けた瞬間に、外にいた部屋を守っていた兵士に声をかけられた。

 誰にも見られることなくエリスロースを探し出せたら1番良かったのだが、早速出鼻をくじかれてしまった。


 しかし、彼の質問を切り抜ける言い訳は用意してある。


「クローディアス王女のペットの所在を確かめたいのだ。探しに行かせてくれないか?」

「ペット……ですか?」

「ペットと言っても人間だ。黒髪で無口な男なのだが」

「では、他の者に探させますので、部屋の中でお待ちください」

「最優先でお願いしたい。ペットがいないとクローディアス王女の心が乱れてしまいかねなくて……」

「はっ!」




 兵士にそう言ってから扉を閉めて、俺はリリベルに報告した。


「エリスロース君はこの城の下にいるかもしれない。彼女の魔力が僅かに下から感じられる」

「それなら地下に続く通路を探さないとならないな」

「なるべく早く、だね」


 そう言ってリリベルが窓の外を指差すと、正面にある塔に閃光が突き刺さり、塔が半壊していくのが見えた。


「もかして、紫衣(しえ)の魔女たちの仕業だろうか?」

「かもしれないね。あのお婆さんだったら、わざと国同士を戦争状態に持っていって、どちらかに加担して戦争に参加するということをやるだろうから、その前段階として今回の襲撃を行った可能性は十分にあるかな」

「今のクローディアス王女の正体がリリベルということもバレているとか……」

「大丈夫だよ、ヒューゴ君の変装のおかげで、今の私は誰がどう見たってクローディアス王女さ」


 クローディアス王女の本当の姿も分からないのに、随分と自信満々だ。俺が彼女にさせた変装は魔法ではないというのに。




 兵士にヴィリーを探させはしたが、黙って待っているつもりはない。後回しにされる可能性だってある。


「ここの兵士の装備はしっかり確認させてもらったから、それを具現化するから着てくれ。着終わったら窓から抜け出そう」

「私の身体でも動き回ることができるように、重量は軽くして欲しいよ」


 重量に関しては勿論考慮するつもりだ。さすがに俺はリリベル程、意地悪ではない。

 一瞬だけ、彼女がひいひい息を吐きながら「意地悪しないでよ、ヒューゴ君」と懇願する姿が浮かんで、それを良いと思ったが、あくまで一瞬だけである。




 鎧の着用が終わって2人の準備が完了した。


 着替える前に、彼女がいきなり部屋の外にいる兵士に向かって「私のペットを連れて来ても、私の返事が無い限りは扉を開けないで欲しいわ」と言い出したことは正直ギョッとした。

 当然、兵士が理由を聞くが、彼女は「今、レイノルドと一緒に部屋にいることは分かるわね?」と含みを持たせるようなことを言って、兵士を動揺させた。

 彼女の言葉は、これから2人は(むつ)み合うので邪魔をするなと言っているのだが、無茶苦茶である。何者かに襲撃されて今は緊急事態だというのに、愛し合おうとする馬鹿者がいるだろうか。


 それでも兵士は王女の言葉に逆らうことはできず「はい」と言うしかなかった。兵士には同情するばかりだ。




 いざ窓を開き、彼女を抱えたまま降りた。

 リリベルに、俺の身体能力を強化する魔法を詠唱してもらっているので、彼女を抱えたままでも城から飛び降りることは難しくはなかった。


 兵士たちは崩れた塔の様子を眺めたり、正門側に兵士を集めたりに集中していて、兵士2人が窓から飛び降りることなど気にもかけていなかった。




「おい、お前たち! 手が空いているなら正門に集まれ!」


 多分、兵士をまとめる少しは偉い立場にある者だろう。兜の頂点の羽が他の兵士と違って長いので、多分偉い。

 丁度良かった。俺たちの顔を知らないなら安心して質問できる。


「申し訳ありません! クローディアス王女の命でペットを探している最中です! 今すぐに探し出せと仰せつかったので、急ぎ探し出してから正門前に向かわせてください!」

「王女はこんな時に一体何を考えているのか……。ええい、仕方あるまい。先に用事を済ませろ」

「ありがとうございます! あ、それで1つ教えていただけませんか!」

「何だ、早く済ませろ」

「王城内は他の者が捜索していて、我々は地下を探せとの命を受けております。しかし、我々はつい先日に王城内の配属になったばかりで――」

「ああ、地下への行き方か。裏手に回って中庭に行け。中庭のど真ん中に取水塔があって、そこの扉に入れば地下に進む道がある。地下牢に用事があるのなら別の道だが、さすがにそっちに用事は無いのだろう?」

「ひとまずははありません! ありがとうございます!」




「順調だな」

新婚旅行(ハニームーン)にしては暗いけれど、我慢してあげよう」

「な、なあ。最近、何か結婚に関する本でも読んだのか?」


 駆け足で忙しさを装いながら兵士とすれ違いつつ中庭に向かう間に、彼女の結婚に関する知識の出処(でどころ)を尋ねてみた。

 すると彼女はふふんと鼻を鳴らして、自分が得た知識をひけらかした。


「読んださ。実践してみて素晴らしい本だと分かったよ。本の題名は『愛を感じたことのない人必見! 愛を感じる100のこと。結婚編』だったかな」

「よ、世の中にはすごい書物が出回っているのだな……」


 まさか、今のリリベルにうってつけの書物があるなんて思わなかった。


 もしかして、その100のこと全てを実践するつもりなのではないかと戦々恐々しつつ、馬鹿みたいに広い豪華な中庭を進み、中央にある取水塔に辿り着く。


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