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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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王女を襲う者

 城内で行われるべきことが終わると、今度は広場を一望できる馬鹿みたいに広いバルコニーに出る。


 広場全体が見渡せる場所で、俺たちの姿が見えた瞬間、地鳴りのような歓声が響いた。

 こう言ってしまうとなんだが、他人様の結婚式を見るだけでどうしてそこまで興奮できるのか理解できなかった。


 国王の側近が最前に出て台に立ち上がり、儀式を行うための言葉を大声で言い始めると、今度は瞬く間に静まり返る。




「確かレイノルドと言ったか?」


 隣に立っている国王ラズバムが突然語りかけてきて、心臓が喉元にまで飛び上がったような感覚になる。

 息が詰まりかけながらも必死に応答する。


「はっ」

「貴様、クローディアスを(たぶら)かして何のつもりだ。我が国に巣食って滅んだ故郷の再興でも企んでいるつもりか」


 どすが利きすぎて怖すぎる。




 弱気な態度のまま応対をしていては、国王の信頼を得られないというのは分かっているが、強気に出ることがどうしてもできない。


 いつ本物のクローディアス王女が現れるかも分からないのに、俺とリリベルは偽の王女と王子を演じ続けているのだ。

 リリベルの身に何かあるかもしれないということを考えると、どうしても恐怖で思い切った行動ができない。


「いえ、決してそのようなことは……」


 すると国王の隣の王妃の更に隣にいるリリベルが、ぴしゃりと言い放った。


「お父様。彼は私のことを愛しています。だからこそ私を求めてくれたのです。そして、私は彼のことを愛しています。だからこそ私は彼を(いざな)ったのです」


 もうやめてくれリリベル!

 これ以上レイチェル王妃と俺の心を破壊しないでくれ!




「そうでしょう、レイノルド?」




 ……。




 そうか。

 彼女の言葉は、国王ではなくて俺に向けられたものなのか。




「ここにクローディアス王女とレイノルド王子の結びを!」


 俺はリリベルにまた勇気づけられてしまったのだな。




 歓声の続きが炸裂すると、国王の側近が俺とリリベルを壇上に立つように促してきた。


 2人で国王と王妃の前に立って一礼してから、くるりと反転する。

 そのまま壇上へと歩き出す前に、勇気を出して国王に彼女への想いを伝える。


「国王陛下、今の私が何を言おうと、お疑いになってしまうことは十分承知しています」


「承知していますが、それでも国王陛下に……いえ、レムレットに住まう皆に言わねばならぬことがあります」


 国王は黙って俺の言葉の続きを待っていた。

 ここまできたら、もうやけくそだ。


 どうにでもなれだ。


 彼女からもらった勇気を蛮勇に変えて、純白のドレスを身に纏ったリリベルを一気に抱え上げて、壇上に走り上がる。


「俺は、リリベルを……」


 この言葉だけはリリベルだけに聞こえるように、彼女の耳元で呟いておく。


 周囲にいる誰もが焦って、あっと声を上げて近付いてくるが、それより前に先に済ませておいた深呼吸で得た空気を一気に吐き出す。


「クローディアス王女を愛している!!」




 どうして広場を埋め尽くす国民はここまで熱狂の声を上げられるのだろうか。たかが王女と王子が結婚をしただけだというのに。


 だが、それでも、空まで突き上がる歓声を受けること自体は悪い気がしなかった。




 リリベルをゆっくりと下ろしてから、本来の儀式の続きを始めると、彼女を広場に落とすのかと勘違いして集まって来ていた側近や兵士たちが、何気なく元の位置に戻って行くのが視界の端で見えた。

 色々な意味で縦横無尽に跳ね上がっている心臓を制御するのは、難しかった。


 リリベルが持っていた指輪を俺の指に嵌め込み、そして俺が持っていた指輪を彼女の指に嵌め込む。




 後は広場に向かって国民に俺たちの姿を見せつければ、儀式はそれで終わりだ。




 終わりだった。




 向き直ろうとしているのだが、リリベルが腕を引っ張ってそれを許さずに、俺は未だに彼女と向き合ったままだった。


「ヒューゴ君……いえ、レイノルド王子。やっと私にも理解できたよ、愛とは何かをね」


 彼女は俺が逃げないように首に腕を回してきて、その上で彼女の方へ引き込んできた。




 横で誰かが倒れる音が聞こえてきたが、その後は何も聞こえなかった。


 広場の歓声も国王の怒声も、王妃を気遣う家臣たちの声も、何も聞こえなくて、唯一聞こえて来たのはリリベルの音だけだった。




 身体に落雷でも落ちたかのように衝撃が走り、後は彼女への愛情だけが口づけの続きを行わせた。






 だが、儀式の結びを邪魔する光が現れてしまった。


 閃光だった。


 広場の向こう側から閃光が走るのが分かった。




 光を見た瞬間から全身に感じた嫌な予感が、リリベルごとその場に倒れ込む行動を即座にさせてくれた。




 光はそのまま俺たちのすぐ上を通過して城にぶち当たり、爆発を起こして城を破壊した。




 身体を起こしてリリベルの身に何も無いか確かめてみる。

 良かった。顔は紅潮しているが無事だ。


「……ここでするのかい?」

「馬鹿を言え! 攻撃されたぞ!」


 広場の歓声が一気に悲鳴に切り替わる。


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