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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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祝祭に興じる者4

 しばらくの擦った揉んだの後に、クローディアスの本来の結婚相手であるオルクハイムという男が入室してきた。


 オルクハイム・セントファリア王子。

 セントファリアの姓の通り、セントファリア国の王族である。当然、格上のレムレットの者と結ぶのだから、セントファリアで最も正当な血筋の者が嫁ぎに来ている。


 考えなしの仲良し結婚ではなく、腹の中にいくつもの想いが混じった所謂、政略結婚というものであろう。




 だから、クローディアス王女……今はリリベルだが、彼女の考え1つでこの結婚がどうこうできるはずではないのだ。


 しかし、クローディアス王女は普段から破天荒な性格なのか、リリベルがどれだけ無茶苦茶なことを言っても、誰も本気で驚く様子を見せなかった。


 勿論、多少の動揺なりはあれども、すぐに順応して問題なく言葉を交わし始めている。




 このオルクハイム王子も同様だ。


「私は、本人が望まぬ形で婚姻の儀に参じるつもりはありません。勿論、王女殿下と結ばれることを心待ちにしておりましたが、こればかりは致し方ありません」

「すまぬ! 決して貴君と貴国を辱めるつもりはないことだけは分かって欲しい」

「あ、頭をお上げくださいラズバム国王!」


 ラズバム王とオルクハイム王子は互いに申し訳なさそうに、謝り通す。

 可哀想である。




 結果として、オルクハイムはあっさり引き下がり、クローディアスとの結婚を取りやめることになった。


 ラズバム王としてはとりあえずの面目を立たせることはできたが、それでも俺とクローディアスとの結婚を認めることはまだないようだ。


「俺はまだ貴様と娘との結婚を許していないぞ。貴様の素性は後々確かめさせてもらおう」


 それもそうだ。

 仮に俺が国王の立場にあったとしても、突然娘がどこの誰だか分からない者を連れて来て結婚しますと言われても、はいそうですかと許せる訳がない。


「だが、だが……この日の儀式だけは何としても成功させねばならん。故に、誠に不本意ではあるが、貴様と娘と今回の儀式に出ることを許す」

「はっ、ありがとうございます」

「だが言っておくぞ! 貴様はあくまで儀式を円滑に進ませるための駒に過ぎん! 儀式の結びは決して行わせぬからそのつもりでいるがいい」

「……儀式の結び、ですか?」


 俺の質問はオルクハイムが代わりに答えてくれた。彼は何度も儀式の練習を重ねてきたので、始まりから終わりまでの流れを熟知していると教えてくれた。


「儀式の結びとは、この祝祭を締めくくるための行いを指します。具体的に何をするのかと言うと……キスです」

「なるほど」


 彼の言葉を聞いて、国王がその行いだけ反対する理由が分かった。




「クローディアスも良いな!」

「はい、分かりましたわお父様」


 リリベルはあっさりと引き下がってしまった。

 だが、彼女の顔を見れば分かる。

 アレは絶対に分かっていない顔だ。






 レイチェル王妃の気が取り戻されたことで、祝祭の主要な儀式の準備が始まった。


 俺の服装は儀式に相応しくないということで、すぐに多数の使用人に取り囲まれて拉致され服を脱がされて、新しい服に着替えさせられた。

 生地1つとっても、厚みがあり、そして重い。軽い運動をすれば汗がだらだらと吹き出してしまいそうだと思った。

 だが、意外にも衣装の風通しは良く、その心配はなかった。


 着替えている間に、到底1度では覚えられない祝祭の流れを、何人もの地位のありそうな人から早口で教えられた。

 歩き方の作法や、リリベルとの腕の組み方、礼の仕方や国王から賜るあれこれの受け取り方等、おおよそ今後関わることのない情報を頭に詰め込む羽目になる。


 実際でまかせではあるが、俺が異国の王子と知っていて、それでも礼儀作法を教えようとするのだから、彼等からの信用は一切無いのだろう。


 ヴィりーはこの祝祭に関係のない男なので、別の場所に連れて行かれてしまった。

 彼はリリベルにペットだとか言われたが、仮にもクローディアス王女が連れてきた人であるから、雑な扱いを受けることはないだろうし、今すぐ殺されるということもないだろう。

 鼻が利く彼だからこそ人目につかない行動ができるだろうし、エリスロースの捜索を行ってくれているかもしれない。




 そして、準備ができると矢継ぎ早に移動させられた。


 城内で行われる儀式が始まると、リリベルと再び出会うことになった。


 馬鹿みたいに広い玉座の間で、俺とリリベルは左右の扉からそれぞれ出て進み、向かい合わせになる。

 それから玉座に向かって方向転換をして腕を組み、2人で共に国王の目の前に辿り着くまでゆっくりと歩く。


 このような公の場で、しかも荘厳な雰囲気の中、お行儀良くしなければならないということは、非常に緊張させられるものだ。




 明らかに偉い立場であろう者たちが、綺麗に列をなして俺たちの動きを見届けている。

 しかし、彼等の列に近付くと、クローディアス王女と結婚するはずのオルクハイム王子ではない男がいることに僅かなどよめきが生まれる。


 そして、事情を知る者がどよめく者に教えたのか、すぐにどよめきは収まるが、代わりにとてつもない殺意の目線の嵐が俺に突き刺さってくるのを感じるようになった。


 処刑ではなく暗殺されるかもしれないな。




 国王の前で跪いてから、俺は剣とマントを頂戴して、リリベルは王冠と紐を頂戴して、それから指輪をそれぞれ頂戴した。


 リリベルは本を読んだのか、幼い頃に師匠から教えられたのか、それとも今さっき教えてもらったことを完璧に覚えたのか、一切の動揺も迷いもなく、美しいという以外に形容できる言葉が無い程の所作だった。

 王族として生きていた時期があったのではないかと疑えてしまう。


 だが、彼女のその所作を見たおかげで、いや、彼女()その所作をしてくれたおかげで、見よう見まねの動作をして取り繕うことができた。



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