祝祭に興じる者
列車は平坦な道ということもあって、首都には半日足らずで辿り着くことができた。
それでも既に日は落ちかけている。
「何だ……これは……」
首都はお祭り騒ぎであった。
皆、一様に白い衣装に身を包んでいて、外を出歩いている。ここがレムレットの首都ということもあるが、人の混雑具合は初めて見る程だ。
しっかりとリリベルの手を繋いでいないと、確実に人の波に押されてはぐれてしまいそうになる。
どう考えてみてもこれは祭りだ。
雑草が生えているかのように家々がひっきりなしに建っているが、その家と家を繋ぐように長い紐がいくつも架けられている。
紐にはたくさんの灯りが取り付けられていて、祭りを華々しく照らしている。
「何でよりによって今日に祭りをやっているのか……」
「……それよりも、今のこの状況だと、こっちの服装は逆に目立つ」
祭りの空気により馴染むために皆、純白の衣装を着ているせいで、目立たないようにと変えた地味な服装が逆に目立ってしまっている。
当然、視線は突き刺さる。
ヴィリーも周囲の視線が集まることを嫌ってそわそわしている。
人の波に攫われないように、とりあえず道の端に3人で寄る。
この場合なら黄色いマントを羽織った方がまだマシかもしれない。
どうしたものか悩んでいると、リリベルが服の裾を引っ張って注意を向けさせてきた。
「ヒューゴ君、私たちは非常に運が良いじゃないか」
道の端に寄って背にしていた建物を彼女が指差した。
振り返ってみると、大きなガラス張りのショーケースに商品が陳列されていた。
1番目立つ位置に展示されているものからして、衣料品店だ。
リリベルが指差したのは、その1番目立つもので、それは確かに白い。白いのだが……。
「いや、確かに白いが、さすがにこれは……」
非常にウキウキした様子の彼女を見ていると、無下に断ることができなかった。
町の者が着ている白いドレスは、見た目に派手な宝石や複雑な模様等の装飾が施されている訳ではない。色は派手だが、その他はいたって質素だ。
対してこのドレスは凄まじく派手で、そして綺麗だ。
例え周囲に彼等がいたとしても、それらを蹴散らす程の壮麗さを持っている。
「と、とりあえず、店に入って他の服を見てみよう。それからでも遅くはないだろう」
「いーやっ!」
ええ……。
店内を見て回ったら、祭りのために何着か余分の白服が用意されていたことが分かった。
俺もヴィリーも店外に出ても問題ない格好になった。
問題はリリベルだ。
彼女は結局、この店で最も目立つ位置にあった最も高い衣装を着ることになった。
着るのにさえしばしの時間を必要とするそれは、見た目は確かに素晴らしかった。
正確にはリリベルがそれを着ていることが素晴らしかった。
彼女の身体の大きさには合わない服を、帯と留め針で止めて何とか着ている。更にその不都合な部分を、白いケープを羽織って隠しているので、見た目にはおかしなところはない。
彼女が店内の試着室から出てきた時は、絶句した。
できるなら変装していない彼女の姿で見たかったと思えるぐらい、ウエディングドレスを身に纏った彼女は美しかった。
「……でも、それやっぱり目立つと思う」
ヴィリーの正論で現実に引き戻される。




