潜入する者2
夜を待ちラルルカの魔法で俺たちは城壁の向こう側へ侵入することになった。城壁の向こう側というか、既に首都近くまで来ている。
城壁には魔力を感知する魔法が仕掛けられていたため、それを破壊するためにリリベルが襲撃という形で、落雷で城壁を破壊した。
そのおかげで俺たちは誰にも勘付かれることなく、レムレット国内に侵入することができたが、これでリリベルが襲撃者であることが確定付けられてしまった。彼女は言い訳の利かない悪人となってしまった。
彼女の魔法は、魔力を感知されない限りは最高の隠密手段になる。
影を操る彼女は、夜であれば影に紛れて自在に移動することができるからだ。
当然、ラルルカはずっと嫌がっていた。
彼女の師であり、家族同然の関係でもあった夜衣の魔女を殺した犯人が俺とリリベルであれば、協力なんてとてもできたものではない。
それでも協力してくれたのは白衣の魔女オルラヤ・アフィスティアのためだろう。
レムレットの首都へ行く道すがらにリリベルがそう言った。
「夜衣の魔女に対して、強い愛情を持っていたのは彼女だけだった。けれど、夜衣の魔女が愛情を受けるに値する程偉大な魔女だったかと言われたら、ちょっと違うかな……何だいその顔は?」
「リリベルの口から愛に関する考察が出てくるなんて思わなかった」
突如俺の胸元に頭を突っ込んでぐりぐりと回し始めてきた。おかげで彼女の髪を黒く染めた染料で服が汚れてしまった。
「君のおかげだよ。あ・り・が・と・う!」
「お、お褒めにあずかり光栄です」
「……話を戻すと、ラルルカ君は白衣の魔女にも愛情を持っているみたいなんだ」
「え、なんで……」
「白衣の魔女はあの通り魔力を優しさで包んだような女だからね。ラルルカ君の生い立ちを知った彼女が、ラルルカ君に愛情を注がない訳が無いさ」
「それで、オルラヤの愛情を受けたラルルカが、オルラヤに家族愛を抱き始めたということか」
「そういうことさ」
親を知らぬラルルカが求めていたのは、家族愛だったということか。
すると彼女が魔女として生きているのも、他の魔女と違って歪な動機がある訳ではないのだろう。
ただ、夜衣の魔女の気を引きたくて、一生懸命に魔法を研究して、夜衣の魔女をも凌ぐ影を操る魔法を習得したのかもしれない。
「……臭い」
ヴィリーがぽつりと呟いた。
彼が臭いと言えば、それは敵を表す。つまり彼は敵の察知を伝えてくれたのだろう。
遠眼鏡を具現化して周囲を見渡してみるが、それらしき者は見当たらない。
「ヴィリー、どの方向に敵がいる?」
「……違う。アンタら2人が臭い」
「え? あ、体臭か? 匂うのか? すまない」
「……違う。男女が人目をはばからずに絡み合うのは臭いって意味だ」
それは申し訳ないことをした。
普段からリリベルに注意していることを、ヴィリーに注意されるとは思わなかった。
リリベルの強めの愛情表現をヴィリーの前で見せびらかさないように行動したかったが、彼女は必死に俺の腕に掴まり指を絡めようとしていたので、諦めて彼女に身を任せた。
道中でずっとヴィリーが「臭い臭い」と小言を放つのを、俺だけが申し訳なさそうに身を縮めて歩く羽目になった。
そうして俺たちは夜通し歩いて首都の1番外側にある町に辿り着いた。




