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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第15章 魔女のための祝祭
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潜入する者

 戦争中であるなら普通は城門は封鎖するが、レムレットは封鎖を行わない。

 そもそも領土が広大すぎて城門を突破してもしばらくは何も無い。


 だから、本来なら城門というよりかは関門といった方が正しいだろう。

 たが、現実にレムレット全領土を取り囲むように、長い城壁がそびえ立っているのだから、そこにある門を城門と呼ぶしか無い。


 常人ならその城壁を見ただけで、レムレットの国力を実感して、この国は他の国とどこかちがうぞと思うはずだ。

 ちなみに、俺は常人だが、他の面々は異常人だ。


 魔女たちや騎士たちからしてみれば、城壁はどこまでいったって城壁で、門はただの門らしい。




 エリスロースは戦争が始まる前に既にレムレットに入国済みだ。

 架空の連合国がレムレットに戦争をけしかけるという噂の流布と、戦争に対応させるために、要人や町人の血を呪っている最中だ。


 彼女がレムレットでできることは既に終わっているはずだが、一向に戻ってくる気配はない。

 彼女なら門を通らずとも血だけになって人と会わずに移動して来ることができるはずだが、それができないということは何らかの予期せぬ出来事に巻き込まれたと考えて良いだろう。


「魔力感知に優れた者がいて容易に移動ができないか、それとも狂ってしまったのかも」


 狂ってしまったというのは、彼女と初めて会った町での出来事に繋がる話である。

 エリスロースは、他者に血を分け与えてその者を操ることができるが、その数が近い範囲内に多数いる場合、彼女は狂ってしまうのだ。


 操るといっても対象の心や身体全てを操っている訳では無く、本人の意志が残っているため、彼女の血の魔力を通して他者の感情が混ざり合っている。

 操る対象の数が多くなればなる程、血を通して紛れてきた感情の数は増え、感情の混線が起きた末に情緒が安定しなくなり、狂っている状態になってしまうという訳だ。




 そうだとすれば、エリスロースを助けに行かなければならない。


 どちらにせよレムレットに潜り込んで確認しに行かなければならないという状況にある。




「私は口を酸っぱくして、血を流し過ぎないように言ったのだけれどね」


 リリベルは頬を膨らませてぷりぷりと怒っているが、エリスロースが戻ってこないのだから仕方ないと(なだ)める。

 そこで、今回の偽の戦争を囮にして攻撃を行なっている間に、城壁を越えてレムレットに忍び込むという作戦を立てた訳だが、潜入者決めで一悶着があった。


 数は少ないながらも皆の個々の戦力は目を見張るものがある。

 だから、レムレットに潜入する者は戦力として、失っても1番計画に支障がでない俺が行こうと挙手をした。幸いにも不死の力があるし、捕まったとしても余程のことが無ければ、具現化する力で逃げることはできる。

 皆も、この中で1番弱いのは俺だと何となく察しているはずだから、全員一致で賛成してくれると思った。


 異を唱えたのはリリベルとカネリで、2人ともほぼ同じような意見だった。


「仮に侵入に成功できたとして、この広い国でどうやってエリスロースを探し出すのか」


 更に、2人からの疑問を解決する提案が続いた。


「魔力感知できる私が一緒について行けば、すぐにエリスロースを見つけられるよ」

「匂いで個人の判断ができるヴィリーを連れて行くと良いさ」




 結果としてリリベルとヴィリーの2人ともがついて行くことになった。

 リリベルもカネリも全く譲らなかったので此方が仕方なく折れた形になる。


 俺個人の意見を言えばどちらか片方だけ来てもらえれば良かった。

 索敵能力は戦いで重要な要素の1つだと、戦いの素人である俺でも分かっているつもりだ。ここに残って偽の戦争をする者たちのために、必要な力をせめて片方だけでも残しておきたいと思ったのだ。




 だがリリベル2人共譲り合いの精神は無かった。

 リリベルについては何となく察するところはある。(かたく)なに俺について行こうとするのは、寂しいからだ。

 オーフラとサルザスで魔女たちと戦いを行なった時は、彼女に過去の嫌な記憶を呼び覚まして欲しくないという思いで、彼女をフィズレに残してきた。

 実際は俺の知らないところでひっそりとついて来ていたようだが、それでも面と向かって会うことは1度も無かった。


 しばらく行動を共にしていなかったのに、またしばらく離れ離れになると分かった彼女は、もっともな理由をつけてついて行こうとしているだけなのだ。




 実はカネリについても察するところはある。


 レムレットに至るまでの道中で、彼と幾度も会話した。お互いに積もる話もあって、フィズレで話し合った時間だけでは足りなかった。

 その会話の節々に、彼の謝罪の意が表れていた。


 彼は、俺が牢屋番をしていた頃に、俺を助けられなかったことを悔いていたようなのだ。


 今になって知ったことなのだが、彼はオーフラの間者だった。

 一体どの瞬間にオーフラ側についたのか、全く予想もつかない程だったから、彼の間者としての才能は目を見張るものがある。


 そして、彼の女遊びは全てが嘘であり、実際には、仲間の女にサルザスの内情を漏らしていたようなのだ。

 彼が老若問わずに女と会っているという話は、常に同じ人物に会っていては怪しまれる可能性があるから、女たらしという属性を自らに付与しつつ誤魔化していたからだ。




 だが、彼はオーフラの間者であったとしても、俺を気にかけてくれていた。

 あの当時は、サルザス奇襲の話が急に決行されることになって、そのまま行方知らずとなってしまった。

 実は、俺にサルザスから逃げるように仕向ける行動を何度もしていたようなのだが、残念ながら考えなしに生きていたあの時の俺は気付くはずも無かった。


 彼はその点についても後悔していたようだ。




 つまり、彼の罪滅ぼしのために、彼はヴィリーを俺に帯同させることを引かないのだと思う。




 俺とリリベルとヴィリーの3人でレムレットに潜入することが決まり、準備をすることになった。


 リリベルには、見た目が黄色に染まっているということもあって、目立つので変装をしてもらった。

 黄色いマントは鞄に封印してもらい、金色の髪については具現化した塗料に頭を突っ込んでもらって黒髪にさせてもらった。


 ヴィリーには、愛用の刀を布で包んで隠して持ってもらった。

 そもそも武器を持って歩いていること自体、怪しまれる種になる。

 その上、刀は目立つ。両刃の剣はありふれた物だから、仮に町中で持っているのを見られたとしても、最悪奇異の目で見られるだけだ。

 だが、刀という片刃の剣も独特な鞘も、常に奇異の目で見られることになる。

 潜入する者が持っているべき物では無い。


 とはいえ、寝る時は常に胸元に抱えて持っているのを見たから、彼にとっては大事な物のようだから、捨てろとまでは言うことはできない。

 布で包んで隠してもらうのが1番だろう。




 俺は……。

 俺は準備する必要は無いか。


 目立つマントも、大層な武器も持っていない。


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