死ぬ前に死を与えられた者
レムレットという国は1度目は許すが、2度目は許さない。
過去にあったできごとだが、周辺国の1つが無謀にもレムレットに攻め込んだことがある。
詳細は知らないが例えば、レムレット以外の国と戦争を行なって勝ち、自信をつけた軍が王を焚きつけて誤りを犯してしまったとか。
とにかく、戦ったが当然勝てる訳も無く敗北した訳だ。
しかし、生き残った者は誰1人殺されることなく国へ帰された。これはレムレットの温情なのだ。
レムレットが大国になってからできたしきたりというものがある。『力ある者は力無き者に情けを与える』、それがレムレットのしきたりだ。
聞く者が聞けば、具体的にはリリベルだったら愚かだと言うだろう。
実際に「愚か」だと評していた。
その国は、1度許されたというのに、不運な出来事が重なったから負けたのだと、訳の分からない敗北の理由付けをして、またもレムレットに戦いを挑んだ。
当然、負けた。
そして、ここからが本題だ。
レムレットは2度目は許さない。
戦いに負けた兵士や王族たち全員の身分や生い立ちを奪い、その者たちだけで構成された軍隊を新たに編成するのだ。
その者たちは皆、金属で作られたマスクを被らされる。1人1人の顔の形に合わせて、勝手にマスクの形が変わる魔法のマスクだ。
マスクを被ることで、その者は晴れて人間ではなくなる。
魔法によって人間としての名残も残さず、全てを捨てて、ただの戦いの道具と成り下がる。死んでも誰も悲しまず、誰もその者の元の形を認識できないようになる。
マスクを取り付けたその瞬間から、その者は死んだも同然の存在となるのだ。
だから、そのマスクを被った者たちを指して、既死者の仮面という名で知られている。
あちこちで戦争が起きているような状況だ。
レムレットも他国とのいざこざが増えていて、征服することがあった。許されざる者の数は多い。
だから、目の前に見える蟻のように大勢の黒い粒は、1つ1つが既死者の仮面なのだ。
俺たちの偽の宣戦布告に対するは、捨て駒の軍隊という訳だ。
だが、その捨て駒が弱いかと言われたら、それは違う。
腐っても戦争の経験がある者たちだし、相応の動きをすることはできる。
それに、人間じゃない者も混ざっている。明らかに人間の枠を超えた図体のでかい者がちらほらと見えている。
「戦争を起こすのは人間だけでは無いのだから、当然といえば当然だね」
「アレはトロールですな。それにあちらのは……ライカンですな」
「不定形の獣もいるじゃんか!」
具現化した遠眼鏡を各々に渡すと、彼等は口々に他に見つけられた種族の名を明かしてくれていった。できることなら、これ以上新しい種族の名は出てきて欲しくない。
レムレットにとって捨て駒である軍隊と戦いを起こしたところで、紫衣の魔女が来るだろうか?
レムレットの長すぎる城壁を前に、嫌な予感が湧き上がり始めていた。




