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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第14章 雷の歌
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戦い喜び戦い飽きぬ魔女2

 ワムルワ大陸で最も領土を持った国、レムレット。

 大陸の中央に位置しており、巨大故に何十ヶ国もの国と隣接している。レムレットを縦断するにしても横断するにしても、短い期間で成し遂げられるものではない。


 保有する軍事力も経済力も文化の発展度も、この大陸で超える国は存在しない。

 ()()()な国ならレムレットの領土を侵そうとする判断はしないだろう。




 俺は皆に、まともではないことをやってみようと提案したのだ。


 当たり前だがふざけている訳では無い。




「大陸南東の正気な国たちで同盟を結び、レムレットに宣戦布告する」


「いや、それは……」

「無理でしょ」

「いくらヒューゴ殿の頼みでも……」


 各国それぞれのお国事情を知る者たちが、口々に難色を示した。


 彼等の勘違いを慌てて訂正する。

 リリベルと共に過ごしてきた弊害が、要点をわざと濁す喋り方となって出てきてしまった。若干不本意であるが、彼女に似てきてしまっている。


「すまない。振りだ。同盟を結ぶ振りをするのだ。実際にはご大層な調印式なんて起こす必要は無い」




 ただ、レムレットと紫衣(しえ)の魔女が、大陸南東の国々が同盟を結んだと誤認してくれればそれで良いのだ。


 第1段階は噂の発生だ。

 レムレット中にエリスロースの血の魔法を潜り込ませて、人を操り噂話を流す。

 そして国外から来た流れ者にも噂を口走らせる。


 どんなに荒唐無稽な嘘を吐いても、同じ嘘を吐く者が多数いれば、人は興味を持たざるを得ない。

 国民たちの間で広げた噂を、徐々にレムレットの中枢に向かって染み込ませていく。


 その間に、新たな嘘を織り交ぜていく。

 間者を各国に送り込んだが、噂話が事実だったという嘘が最も良いだろう。


 第2段階はレムレット近くで兵士を具現化することだ。

 あらゆる国の防具を着込んだ兵士を生み出して、レムレットの前に立たせる。それだけで、一気に不穏な流れになるだろう。


 不安定な情勢で、各国は周辺国の動向に常に目を光らせている。

 宣戦布告なんか無くたって、得体の知れない兵士が領土近くにいるというだけで、戦いに発展するような状況だ。


 駄目押しにリリフラメルに戦いの演出をしてもらう。

 彼女がレムレット兵の前で炎を撒き散らせば、すぐに彼等は異変を感じ取ってくれるだろう。彼女の炎はそれ程恐怖を生み出してくれる。事実俺は彼女の炎に何度も恐怖を味合わせられている。




 そうして、紫衣の魔女の預かり知らぬところで大きな戦争が起きたと知られれば、必ず紫衣の魔女は戦争に首を突っ込んでくる。リリベルは自信満々で言っていた。




「それって既成事実っていうやつじゃねえのか?」


 ルースの質問は予想済みだ。

 もしこの作戦が上手くいくなら、レムレットの者たちの中では、ノイ・ツ・タットやフィズレ、オーフラ等の国々は、同盟を結び自国に攻撃を仕掛けてきているということを真実とするだろう。


 そうすれば俺たちの目的を達成した後も、レムレットが敵対を続けることは明白だ。




「私のせいにすれば良いよ」


 先にリリベルが答えてしまった。俺の口から言うはずだったのだが、足を組んで肘掛けに手を置いて不敵な笑みを作っている彼女を見るに、悪役っぽさを演出して言ってみたかったのだろう。

 困った魔女だ。

 とりあえず足を組むのは、はしたないので机の下から彼女の足をはたいて正しい姿勢に戻させる。


「こほん。皆、知らない振りをすれば良い。被害者を装えば良い。魔女が企んだ策略だと弁明すれば良い。オーフラの王だったら、私に脅されていることを考慮すれば、無理なく弁明できるでしょう?」


「他の国の君たちなら、私に洗脳されていて国を操られていたとでも言えば良いさ。レムレットで私はたくさん悪目立ちしておくから、君たちは化粧でもして疲弊した様子でも見せながら、『雷を操る金髪の魔女にしてやられた』とでも言ってレムレットに助けを求めれば良いよ」




 非常に不本意ながら、第3段階は全ての責任をリリベルになすりつけることだ。


 膨大な魔力を保有する彼女の名は、各国の高官の間でも広く知られている。金髪金眼の黄色いマントを羽織った魔女のことを話せば、誰でも「ああ、あいつのことか」と話が通じる。

 レムレットも例外では無い。


 俺はこの作戦の第3段階においては、まだ納得できていない。

 俺は、リリベルの魔力を求めるあらゆる者が、彼女を虐げてきた過去があることを知っている。


 だから彼女の騎士として生きていくことを決めてからは、彼女に2度と苦しい生き方をして欲しくはないと願い行動してきた。


 彼女の魔女としての評判を高め、他者の魔女に対する嫌悪感を薄められるように、彼女の名を使って助けを求める者たちの問題を解決してきた。

 それこそ、彼女を英雄に仕立て上げるつもりだった。


 紫衣の魔女を誘き寄せるための今回の作戦は、今まで積み上げてきたものを失わせるに等しい。彼女が再びあらゆる敵意に晒される日々がやって来ることになる。


 それだけは嫌なのだ。




「黄衣の魔女殿を犠牲にするような真似は……。何か他に良い案があるはずです」


 ロベリア教授と同意見だ。

 だが。


「あるよ。他に良い案は幾らでもあるさ。でも、時間が無いんだ。こうしている間にも、たくさん死んでいるからね」


「だから、この方法が1番楽で良いでしょう?」


 そう。

 今の俺たちには余裕が無い。


 明日にもこの国に隣国が攻め入ってくるかもしれない。

 自分の近しい者が病に冒されて誰かを殺したり、殺されたりするかもしれない。


 世界中で争いが争いを呼び起こす状況になっているというのに、紫衣の魔女を誘き出すために綿密な準備を行っている暇など無いのだ。




「まあ、オーフラ(うちの国)は心配無いよ。きっと勝手に君のせいにするはずさ」


 カネリは早くもリリベルの案を飲んでいるようで、そのあっさりとした態度にクレオツァラが睨んでいた。

 彼はクレオツァラの視線に気付きながら、彼に向かって言葉を続けた。


「だから、君たちについて行く。その作戦が失敗したら此方も困るし、人手は多い方が良いだろう?」


 彼はランドたちに同意を求めるが、ランドたちは皆諦めたような表情になっていつものやり取りを始め出した。


「俺たちに振られても困る。あんたの部下なのだから、何があってもあんたについて行くつもりだ」

「ヴィリーも同じだよな?」

「だから……」

「おお『ヴィルリイ』だろ?」


 するとカネリたちの意見に他の者も呼応し始めた。


「魔女殿を犠牲にする話は今は置いて、私も微力ながら手伝いをさせてもらいますぞ」

(わたくし)はこの通り、戦いに参加できる身体ではありませぬので、物資で力になりますぞ」

『勿論、僕たちも行きます』

「え、アタシも……?」


 若干1名、嫌がる素振りを見せる魔女がいたが、皆、同行するつもりのようだ。




 随分と気楽そうに皆は肯定してくれたが、果たして大丈夫なのかと心配になってしまった。余程命知らずなのか。


 杞憂している間に、リリベルがふふんと鼻を鳴らした。

 目を合わせると、彼女は一言放った。


「ほらね?」


 皆と顔合わせする前に、俺に言っていた彼女の予想が当たった。


『私の大切な人が頑張って築き上げてきたものは、そう簡単に崩れたりしないさ。きっと彼等は乗り気でついて来るよ』


 彼女は自慢げに両手を腰に当てて胸を張り、またふふんと鼻を鳴らしてみせた。


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