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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
プロローグ
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旅支度

 屋台で食事を済ませて、広場から少し離れて町を見てまわった。

 前の町ザリオよりは小さいが、それでも立派な家々が立ち並び商店もある。




 お金の袋を確認する。

 しばらく生きていける金があるんだ。


 サルザス国に特別愛着があるわけでもない。

 何となく生きていければそれでいい。

 黄衣の魔女のことは忘れて、兵士の仕事も投げ出して、遠くに逃げて根を張って別の仕事を探すか。


 ともなると地図が必要だ。

 移動するには荷物も多く運べる魔獣がいた方がいいだろう。


 お金をくれた彼女には悪いが、祭りはそこそこにして残りはこれからの旅に使わせてもらおう。

 残ったお金を彼女に返す、ということはしない。

 そこまで俺は良い人間ではない。


 魔女にはせめて一言断りをいれておこう。




 ふわふわとした構想を立てて、必要な道具を買うために店を物色する。


 魔力石店があった。

 魔力石は魔法によって閉じ込められた物質や状態を取り出すことのできる便利な石だ。

 火付けに便利な火の魔力石、生きていくために必須の水の魔力石などがあり、この世界では生きていくのに欠かせない道具だ。




 魔力石やその他移動に必要そうな道具を買い揃え、買ったリュックに詰め込む。

 それなりに買い物をしたつもりだが、硬貨袋にはまだ最初より3分の2ほどの金が残っている。

 何せ金貨2枚あれば馬が1頭買えるのに、今さらっと見ただけでも何十枚とあるのだ。


 それでも掃いて捨てるほどの金があると言っていたあの女性は、家にどれほどの金を溜め込んでいるのか。




 真上にあった日も少し落ち始め、そろそろ広場に戻る頃合いになっただろうか。

 広場へと足を動かしていく途中で服屋があった。


 そうだ、服が雨風にそのまま晒されないようにマントを買っていこう。


 店の中に入ると色とりどりのマントが並べられている。

 店の奥には爺さんが1人、腰掛け椅子でくつろいでいる。俺を見かけるとどうぞ見ていってください、とばかりに微笑んできたので、会釈で返す。


 正直、どのマントが良いか悪いかは分からないので、なるべく安い物を選んでみた。

 すると、奥にいた爺さんが気になったのか近付いて来て告げた。


「アンタ、旅人かい? 大きな荷物を背負っているが」

「ああ。まあ、そのようなものです」

「そうしたら少し高くなるが、この生地のマントが良いだろう。雨に濡れにくい。今、アンタが持っているマントは雨が降るとすぐに染み込んで身体を冷やすことになる」


 爺さんは親切に商品をすすめてきた。

 値段を確認してみると、銅貨を追加する程度で買えるほどの物だったので、爺さんがすすめてきたマントを買うことにした。

 こういった物は知識がある者の教えに従った方がいい。




 ふと、横目に鮮やかな黄色のマントが目についた。

 かなり目立つ。

 こんな物を着る奴がいるのか、と嘲笑混じりに鼻を鳴らすと爺さんがそれに気付いたのか語りかけてくる。


「それは魔力が閉じ込められたマントだよ。といってもほぼ魔力は残ってないのだがね」


 世間話程度になぜか聞いてみる。


「元々これは貰い物でね。何年か前に小さな女の子が来て、置いてくれと言ってきたんだ」


「置いておくだけで魔力が流れて金運が良くなるとか――」

「いや、それ絶対騙されてますよ」

「もちらん最初は私も信じていなかったがね。ただ置いてもらう代わりに金貨1枚をくれると言うから、悪いこともないし置いていたんだ」


 爺さんは黄色のマントを手に取ってこちらに見せる。

 よく見ると細かい何かの紋様の刺繍が入っており、かなり手の込んだ作りになっていた。


「それで、置いてみたらこのマント光るんだよ! それで、光っている時はなぜかお客さんがたくさん来て服を買っていってくれるんだ」

「へ、へぇ」


 絶対気のせいだと思う。


「でも、最近は光らなくってきてね。もう魔力は無くなってきたのだろう。だから今はほとんどマントとしての役割しかないさね」


 と、爺さんが黄色のマントを元あった場所に戻そうとした時。




 なるほど。

 確かに光る。




 爺さんは光り輝く黄色のマントを持ちながら、こちらに振り返り一言。


「言ったとおりだろう?」

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