燃え続け憤怒する魔女
身体の内側から燃え上がるような痛みを感じていたが、回復魔法を詠唱し続けたおかげで、ひりひりと肌を刺す痛み程度で収まるようになった。
つまり完治はさせていない。
回復魔法を中途半端に終わらせた理由は、崩れた塔の向こう側で戦いの音が聞こえているからだ。
周囲を覆っていた煙が晴れ始めて、そこに人の影が残っていないことを確認して、リリフラメルとラルルカが向こうで戦っているのでは無いかと思った。
可能な限りサルザスとオーフラの兵士たちの命を失わせないためにここまで来たというのに、これで彼女たちが俺のために彼等を殺して回っているとしたら、心の中が後悔と苦痛に覆われることになるだろう。
崩れ溶けた監視塔の残骸は雨で固まり、城壁の歩廊へ上手い具合に繋がっている。
戦いの音はどの方向からでも聞こえてくるが、最も近い音はその歩廊の上からだった。
音源に興味を引かれて登りつめたところで、すぐ視界に入った男たちが丁度人の形では無くなるところを目撃してしまった。
人間爆弾は魔力石の欠片と共に、胸壁や歩廊、そしてリリフラメルを傷付けている。爆発後の彼女の腕から新鮮な血が流れ出ていた。
彼女の名を呼んでも答えてくれることは無く、炎を放ち始めた。
渦を巻いた炎の柱が歩廊を縦横無尽に暴れ回って、力を誇示しようとする。
しかし、炎の渦を全く意に介すること無くサルザス兵が飛び出てきた。誰も彼も燃え盛る自身の火傷を気にする様子は無く、ただ1人の魔女に対する愛の言葉を呟き続けていた。
ほとんどは「愛している」という言葉の繰り返しだが、それでも誰に向けられたものなのかは容易に想像力がついた。
そんな狂いで満たされたことをさせる者は、桃衣の魔女ただ1人しかいない。
「残念ねえ」
桃衣の魔女は『私を愛してよお』と連呼する。
味方のはずのサルザス兵たちが、いとも簡単に命を散らされてしまう。
彼等の苦痛が俺やリリフラメルに広がっていく。
俺はともかく、リリフラメルがこれ以上俺のために痛む必要は無い。
彼女の前に立ち、大きな盾を具現化して爆発から彼女を守る。
「私よりもそんな人間もどきを愛してしまうのかしら?」
桃衣の魔女を愛している俺がリリフラメルよりも愛していないはずが無い。
俺は確かに彼女を愛している。
炎の渦が消えるとそこには、美しい魔女ローズセルト・アモルトがいた。
妖艶な女性である。
顔が真っ赤に焼け爛れているが、それが逆に美しい。
刺激の強い下着姿は、ボロを超えている。
それでも彼女は美しい。
美しい彼女の爆弾が爆発する様もまた、美しい。
だが、それでも俺は防御をしなければならない。リリフラメルを守るために構えを解く訳にはいかないのだ。
例えそれが愛している魔女だったとしても俺は戦わなければならない。
次回は8月13日更新予定です。




